サソリ

 ベッドの半分以上を占拠し、ぐーすか眠っている男。身体がデカイのでダブルベッドがシングルになっている。


「しゃーねーなー」


 クロウは横にある長そでを手にし、小さなソファーに寝転んだ。


 上半身は裸だ。よく見ると隆々とした筋肉。その力で相手が一撃で崩れおちるのも納得だ。


 クロウが眠りにつく。いい夢を見られるようにと念じながら、

 

 

「……クロウよ。あと一人仲間になってくれる。こいつこそ最も哀れなやつでのう、その業の深さに毎日眠る事もできずに苦しみぬいておる。救ってやれクロウよ。お前にはそれができる……」


 クロウは目を覚ました。


「夢か。しかし最近おババの夢をよく見るな」


 スピードのイビキがうるさい。二度寝をしようとしてもできない。


 しかたないとズズの部屋へ緊急避難する。


「ダメだもう死ぬ。一時間でいいんで寝させてくれ」


「分かったわ。ダブルベッドだからあたしが右に寝るね」


 ふたりがどたりとベッドへ。ズズがウキウキしながら、クロウの方ににじり寄ってくる。


「ねぇ、初めてじゃない?こんなふうに近づいて眠るの」


「ああ、そうだな」


「クロウが本気なら今夜あたしにぴゅっぴゅしていいのよ。あたしもたっぷりサービスしてあげる♡」

「ぴゅっぴゅってなんだよ。というかそういうつもりでこっちに……」 


「シャワー浴びてくるね」 


「もう!どうすりゃいいんだよ!」


 とろんとした目でクロウを見て服を脱ぎはじめた。


(いやいやいや、ぜってーつきあわねーぞ。浮気なんかしなら首から上が無くなる!)


 かつん、こぽんと風呂場の方から音がする。


(やべー、やべー展開になったぞ。前の部屋へ戻るか……そうするとズズがこの旅からおりるかもしれない。……詰んだ)


  クロウは仰向けに寝ている。ズズがベッドの横にバスローブを来て戻ってきた。


「よっこらしよ!」


「オバハンか」  


 ズズかさらに体を押し付け、腕に絡まってくる。バスローブからはだけた胸がクロウの上腕にじかに当たる。


「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」


 クロウは必死でこの苦行に耐える。 その時クロウのカンが働く。


「来る、敵だ」


「え〜こんな時に〜?」


 クロウが着物をはおる。


「ズズもすぐに動けるように…あ!」


  振り返るとズズが前をはだけておっぱいが丸見えだ。


(キレイだ……Cカップだな。大きくもなく小さくもなく)


 静止する事三秒。着物の下がすでに臨戦状態になっている…… などと考えている場合じゃない。


「いいか、寝ているふりをしてるんだ。まずはどんな異能か確かめなきゃ」


「分かったわ」


 ふたり、緊張しながら横たわっている。


「近い」


 うなづくズズ。


 するとベッドの足元からランプの光に照らされて紫色の細い管のようなモノがゆらゆらと二本せり上がってきたではないか。


「? 何だこれ」


「こんな管どうすんのかしら」


 その時、クロウが素っ裸のズズに体当たりをした。


「いやん、待ってよ。あせんないで」


「違う、違うんだよ。針だ。その管には針がついてる。おそらく毒針だ!」


 管はまたゆらゆらと獲物を探している。


 そして二人を見定め毒針が飛んでくる!


 パシンと二本同時に管の横を捕まえるクロウ。うねうねともがく管。


 ズズが黒い玉で二つの管を断ち切る。ズルズルとドアの下の隙間から引っ込む紫の管。


「なにやってんだ?なんかさわがしいぞ」


 スピードがドアを開けて入ってきた。裸のズズを見て口をあんぐりと開ける。


「お、お前らそういう関係だったのか……」


「違う違う何もかもが違う。敵の襲撃だ。スピード、ズズ、行くぞ!」


 外に出た三人。クロウがカンを働かせる。


 大通りを進む。だんだんと近くなっている。


 公園についた。暗い。公園に入るとクロウが叫ぶ。


「あの毒針はおそらく十本だ。二本なくしたんで八本残っている」


 暗闇に目が慣れてきた。クロウは仰天した。全身黒タイツの男が二メートルほど浮き上がってこちらを見下ろしているではないか。


「ようこそ、死刑台へ。俺の名はサソリ。博打場を統べる者た。男にゃ用はねー。消えな」


 にやついたいやらしい顔。スピードがまず動く。


「えいやー!」


 後ろ回し蹴りが届かない。


「あたしにまかせて!」


 ズズが黒い玉を手から放つ。するとサソリは一瞬で消えた。


「その異能が一番恐ろしいらしい。ズズとやら死んでもらう」


 一筋の管がズズに飛ぶ。スピードがギリギリで管を捕まえた。


「クロウ、分かるか。こいつ3つの異能を使ってるぜ」


 サソリが驚いたように目をむく。


「お前ら知らないのか?」


「何をだ!」


「クックック素人め。自分が身につけている異能で敵を殺したら、その相手の異能を全部奪う事ができる。そうして異能者は強くなっていくんだ。ごたくはこれまでだ。死ねい。ズズ!」


 今度の毒針は速い!ズズはしゃがみ込む。


「キャー!」


 するとスピードが自らの左手に毒針を当てた。


「ぐっ!ズズ、俺の左手を肩から吹っ飛ばせ!」


 涙目でスピードを見る。


「そ、そんな事できない……」


「早くしろ!体に毒がまわる」


 ズズは黒い玉をスピードに放つ。スピードの左腕が吹っ飛ぶ。


「ぐわー!」


 敗色が濃厚になった。

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