この国の支配者
ブンブン槍を振り回す一人の男がいる。
汗が飛び散る。槍を正面に構える。
「伸びよ!」
2mほどの槍が5mくらいに一気に伸び、人型の藁人形の心臓を貫く。
「ぬん!」
槍を抜き、次は連射だ。
ズバズバズバババ!
藁人形は原型をとどめず崩れ落ちた。
「今日はいつになく槍が冴えてますな」
男が振り向く。
「奴らは今何処にいる。センリ」
センリは両腕に抱えた水晶を覗き込む。
「まだまだナゴル山を越えたばかりの所におります」
「各地の隊長に号令をだせ。その内の二人はどうでもいい。とにかく空間消滅の異能を使う奴を殺せ。ズズと名乗っている若い女だ。おそらくこの国で最強の異能である事は間違いない」
「御意……」
「あー、腹減った」
「あたしも……」
三人連れ立って、峠を越えた下山道を下っている。山道は険しい。食料を持ってくればよかったと後悔しながら歩を進める。
クロウが立ち止まる。
「なんだよクロウ。テンポが乱れるぞ。こんな山、さっさと下りようぜ」
「誰かに見られてる」
「えーまた山賊?」
「違う。かなり遠い所からだ」
「そんなもん、無視してさっさと宿に行こうぜ」
スピードがスタスタ歩いて行く。ズズがあとに続く。しかしクロウはその場にとどまって正体を見抜く。
「老人……か。敵か、味方か」
「早くしろよ」
「ご飯食べたい…」
クロウが二人に追いつく。
「なんだよ」
「分からない。しかし恐怖を感じる」
「見えない物に怯えるな。俺は見た物しか信じねぇ。そんな事より食いもんを見つけろよ。自慢のカンでよう」
「ザコじゃない。おそらくこの国の最強の男だ。用心しながらゆっくり進め」
「けっ」
三人はゆっくり峠を下ってゆく。
下山し町中に到着した。宿屋を探すスピード。
「あったあった。『やどや』って看板がある。非常に分かりやすい」
(単細胞め)
クロウがその店の危険度をはかっている。しかし何も感じない。スピードとズズが門をくぐり中へ入ってゆく。
「三名様の到着だ」
カウンター越しに宿代を払う。二人部屋を二つ確保した。
「飯がない?」
「はあ、うちは木賃宿でして、素泊まりのみに御座います」
金が残り少ない。クロウはさっさと番号通りの部屋へ入る。
「ということは、俺とズズが一緒の部屋か」
「バカ言わないでよ。バカ。あんたはクロウと一緒でないと。用心棒でしょ!」
ズズがスピードの尻を蹴る。ドアを開けながらスピードが振り向く。
「いつか犯してやる…」
スピードがドアを閉める。
「ふん。そんな度胸ないくせに」
ズズは隣りの部屋に入りリュックを下ろしベッドにどたりと倒れこむ。
三人は食堂を探し回る。適当な店に入るとスピードがまずは酒をたのんでいる。
「クロウ、お前は酒飲めねーのか?」
「飲めるけどさ、酔うと熟睡してしまうだろ。危険な事に素早く反応できなくなる」
酒瓶ごとガバガバ酒をあおるスピード。(いい気なもんだ)と飯を食らうクロウ。
林の中から五十人ほどの男達が、黒毛の馬に乗る男を取り囲む。
「ついに捕らえたぞ、デウス。神の名をかたる悪魔め!」
「悪いが急いでいる」
「逃がしはしないぜ!」
一人の男が剣で馬を狙う。デウスはかついでいた槍を振り、カーンと剣を弾く。
それを合図に一斉に男達が馬を剣で刺す。そして馬は体中から血を噴き出しながら死んでしまった。
デウスが地面を踏みしめ馬の鼻をなぜる。
「……ピロちゃん……かわいそうに。今からかたきをうってやるからね……」
「こいつなんで子供みてーに泣いてんだ?」
「隙だらけだ。今しかない!」
その自警団のリーダーが真後ろに回りこむ。
静かに剣を振り下ろしたその時。デウスが握っていた短い棒がシュッと伸びる。
「ぐはっ!」
デウスの槍がリーダーの心臓を貫いていた。デウスは全く振り向きもせずに。
「ピロちゃんを返せ!」
デウスが次々に自警団を刺し殺していく。
最後の敵は馬に乗っていた。
デウスは顔をよじらせた。
ブンッ!
男の横っ面に槍をぶち込み、男は落馬した。
「おのれ!」
ロングソードでデウスに突撃するも長さが違う。
デウスの槍が伸び、男の喉を突き破り頭蓋の中をぐちゃぐちゃにする。
「槍が真っすぐだという固定観念を捨てる事だ」
頭をかきむしる男。ついに両腕がだらんと下に落ちた。
手はまだぶらぶらしていたが、力尽き絶命した。
「ふん、弱すぎるわ。強力な異能を持っていないと、何十人かかってきても同じことよ」
そしてまた馬に駆け寄る。
「ピロちゃん、さよなら……」
男が乗っていた無傷の馬にまたがり、ゆっくりと歩を進める。
「まぁ、いい準備運動にはなったわ。わーはっはっは!」
この男こそ、この国の支配者。「アウカトラズ」のボス「デウス」である。
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