決断

「まーた山だよ」


 クロウがうんざりしながらぼやく。


「困難はキツければキツいほど高みに近付く。俺の師匠の言葉だ」


「まぁ、言わんとしてる事は分かるけどさー。困難はなるべく少ない方がいいんじゃない?」


  スピードが首を斜めにかしげながらクロウを見る。


「お前は甘いな。甘チャンだ。だからそんなカンがいいなどという後ろ向きな異能が身についたんだ。お前によく似合った力だ」


「甘チャンで悪かったな」


  スピードが立ち止まる。後ろから来ていたロードとぶつかる。


「俺の右手がなかった理由を言おう。利き腕だったからな。究極の困難だ」


「右腕か。そうだな。困難だな」


  スピードが遠い目をして語りだす。


「あれば俺が21歳の時だった。世界大会二連勝で得意の絶頂だったころだ。人をバカにし、悪たいをとばし、人を人と思わず。俺は少しの努力で世界が取れた。しかしいくら努力をしても取れない奴が大半だ。なぜだと思う。ロード」


 ロードが目をしばたかせる。


「え、俺? そうだなぁ、……分からない。俺は水虎だから。生まれつき人間よりも強いからな」


「そうだ。それなんだよ。俺は天賦の才だと思っていた。つまり自分は天才だと驕っていたんだ」


 クロウが横目でスピードを見る。確かに天才的な技の持ち主だ。クロウも認めている。


「ある時師匠にこう言われた。『このままではお前はさらなる高みには行けない』とな。そして刀をわたされた。本当の武辺者になるには試練を超えてみろとな」


 ズズがおそるおそる言う。 「もしかして……刀で……」


「そうだ。刀をわたされた時、瞬時に理解した。右腕を斬るしかないと」


「うわ、マジか。きっついはなしだなー」


「左手で刀を持ち、意を決して肩から先を斬りおとした。涙がでた。これでもしかしたら最弱になるかもしれないとな。しかしそこから俺は生まれ変わった。左手を徹底的に鍛え上げ、真の足技を手にいれた。そして次の年の世界大会で俺はまた優勝したんだ」


 ズズが目をキラキラさせてスピードの腕を取る。


「かっこいい……」


「なぜそんな困難を乗り越える事ができたとおもう?」


 みな首を振る。


「師匠も右足がないからだ」


 みな絶句する。


「わっははは。少し話し過ぎたな。先を急ごう」


 クロウはそんなスピードがまぶしく見えた。

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