ロードの力

 夜、草木も眠る時。


 クロウ一行は大きな宿屋の四人部屋でみな寝ている。


 いや、正確にはロードは寝ていない。


 何年間眠っていないだろう。人間ならばとうの昔に発狂し死んでいるものを。


 神は残酷だ。あと50年この苦しみが続くのか……西の果てに着いたら記憶を消してもらうのがロードの望みなのだ。


 不浄な身を清め新たなる道を行く。そうなればどんなに楽だろう。


 夜中の3時、一人の男が宿屋の前に立つ。アウカトラズの幹部、デューマである。


 宿屋の玄関の鍵をはずす。一直線にクロウ達の部屋へ。


 ドアを開ける。短刀を鞘から出す。


(バカどもがいびきをかいてやがる。くくく)


 クロウが目覚める。


「だ、誰だお前!」


 その大声で、みな目覚めた。


 デューマが叫ぶ。


「止まれ!」


 みな一斉に体が動かなくなる。


「ぐ、ギギギ……」


 意識はある。体だけが動かない。


 デューマがズズを見つける。


「この女か、賞金首は」


 デューマが短刀を振りかぶった時。


 シュルシュル


 白い縄がデューマめがけて飛んでゆく。


「止まれ」


 ロードのなわしろが弾かれる。


「俺は思念体を弾く防護壁を持っている。攻撃しても無駄だ。それより、お前はなんで動いてるんだ」


「俺は人間じゃないんでね。あらゆる術は無意味だ」


 ロードの目が翡翠色に妖しく光る。


「なんだその目。水虎か! なぜ妖怪が人間などと一緒に旅をしている?」


「答える義理はない」


 ロードが立ち上がり右手を水平に払う。


「セカーレ」


 デューマの防護壁が切り裂かれた。


「なに!?」


 シュルシュル……


 ロードのなわしろがデューマめがけて一直線に飛ぶ。


「他愛もない」


 デューマが姿を消す。


(くそっ!クロウさえ動けりゃ殺れるのに。まぁいいあれで探りを入れよう)


 ロードが集中する。顔が老人になり白髪となる。水虎の姿だ。


「万華鏡」


「うわ、なんだ!目、目が見えない!キラキラする! 何なんだこれは!」


 デューマが思わず姿を見せた。


「捉えたぞ」


 再びなわしろを飛ばすロード。今度は首を狙わず足に絡みつく。


「これで動けまい。三つ数えてやる。念仏でも唱えろ」


 するとデューマの体が小さくなっていくではないか。すかさずなわしろから脱するデューマ。


「こしゃくな!」


 ロードのなわしろの先端が尖る。


 ズン


 なわしろがデューマの頭蓋を貫く。


「ぎはぁ……」


 その場に倒れるデューマ。ひくひく痙攣していたが、すぐに息絶えた。


 残りの三人の縛がとかれた。「ひゅー」クロウが息をつき、ロードをねぎらう。


「ロードがいてよかった。ありがとう。凄い異能戦だったな」


「それが俺を苦しめているんだ」


 ロードが首からぶら下げている小さな頭骨の数珠を手で握る。


「だったな。眠れないんだろう。人を殺めるごとに罪に苦しんでいるそうだな。そういう世界を終わらせる事が俺の使命だ」


 ロードが頭をかかえる。


「そんな世がくるはずがない!」


「くる。必ず! 俺が成し遂げてみせる……ロード」


「なんだ?」


「俺の異能は最弱だ。お前の力がいる。俺と同じ道を歩まないか」


 ロードが黙り込む。


「お前がぐっすりと眠れる世界を作るんだ。これはお前の使命でもあると思う。考えていてくれ」


「……あぁ。考えるだけは考えてみよう」

 

 

 水晶から顔を上げるセンリ。


「今、デューマが殺られました。あの妖怪も侮れませぬぞ。まさか異能が効かぬとは」


「その水虎とやらを手下にできぬものか」


 デウスがブランデーグラスをかたむける。


 センリが知恵を巡らせる。


「奴ら水虎とやらは、元は食い扶持を減らすために親に殺され川に流された子どものその怨霊が魚に取り憑き大きくなった者と聞き及んでおりまする」


 デウスが興味を示す。


「ほう。悲惨な話だ」


「はい。ゴオウをぶつけてみてはどうでしょう」


「ゴオウか。催眠術しかとりえがない奴。異能は水虎には効かないのではないのか?」


 センリが笑い顔を浮かべる。


「ゴオウの催眠術は異能ではございません」


「ほう、面白い話ではないか」


「策を」


「策?」


「そうです。策を授けます。必ずやズズもロードも手に入れる事ができる事かと」


 ブランデーを飲み干すデウス。


「まかせる」


「御意」


 危険な男が迫りくる。







 








 










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