閑話:情報屋対談
大手情報屋クラン「リサーチ」
テイマー部門の代表である私、斎藤は「リサーチ」のクランマスターに呼び出された。内容は分かっている。東の街ボスコについてだ。
ずっと停滞していたワールドストーリーが進行した件だろう。私は今回、あるプレイヤーのおかげでかなりの量の情報を得ることができた。
他の情報屋クランを出し抜いてワールドストーリーの進行に我がクランは貢献できた。これでまた「リサーチ」は有名になるはずだわ。
私としてはご褒美としてテイマー部門の人員を増やしてほしい所だ。
まぁ、それは置いといて。
冒頭にも述べたが、私は呼び出されてクランマスターの部屋の前に立っていた。そろそろ部屋に入ろうかね。
一応、ノックをしておこうか。
コンコンコン。
「どうぞ」
「失礼しま~す」
何でゲームの中でまでこんな事をしなきゃなんないのよ…。
ドアを開けると目の前には事務机があり、その向こうにはクランマスターが一人座っている。
「来てくれてありがとう。そこに座って」
声をかけられた私は指示に従って、事務机の前にぽつんと置かれている木の椅子に座った。
大手のクランマスターの部屋がこんなに質素だって知られたら私は悲しいよ?せめてソファーくらいは買おうよ。それくらいは情報料で儲けてるはずだよね。
「マスター直々の呼び出しなら私もちゃんと出てきますよ」
「嘘ばっかり。斎藤ちゃん。ここには2人しかいないのよ。変に気を遣わなくて良いわ」
事務机の向こう側に座っている男はそう言った。
この男。プレイヤー名は「後藤」と言い、私のリア友である。ナンパされたくないからという理由で好きな漫画の主人公を選択した『女性』だ。
いわゆる『ネナベ』である。ちなみにゲーム内の姿はイケメンな大学生って感じ。
本人には言えないがゲーム内でナンパされると思ってるところが面白い。リアルの彼女は確かに美人だけど、ちょっと自意識過剰じゃない?
「なら遠慮なく。後藤ちゃん。今日はどうしたの?わざわざ私を呼び出すなんて。フレンドコールじゃダメなの?」
「あなた、フレンドコールをずっと無視してるじゃない!だから呼んだの!それともリアルで訪問した方がよかった?同じマンションだから今からでも行くわよ」
「すみませんでした。だから家には来ないでください」
「どうせまた部屋を散らかしまくってるんでしょ?」
「もう良いから!本題に入って!!」
何でこんな事でメンタルにダメージを負わなきゃいけないのよ。
「本題ね。あなたも分かってるでしょ?今回の協力者の名前を教えて」
「絶対に~。嫌!!!」
「うるさい!」
予想通り過ぎてつまらない。帰ろうかな。
「さっき公式のホームページに『英雄の称号を与えられたプレイヤーが1人増えました』って出てたのよ!あなたじゃないわよね?」
嘘!?
私もメニュー画面を開いて確認する。ゲーム内でも公式ホームページは確認できるからね。
「その様子だと知らなかったのね。驚いてるみたいだし」
多分ヨルガノ君だわ。どうしよう。私が今、下手に近づくとバレる可能性がある。
というか私がドロシーちゃんのお店でレイアと一緒に話している姿を見られているはず。いやレイアがいたからそっちに目がいってヨルガノ君が目立たなかったとか?
いやこのゲームはロボットに妖怪、魔物など何でもござれの世界だ。意外と目立ってないかもしれない。
「何を考えてるの?」
「べ、別に~」
「思い当たる人物がいるのなら教えて楽になりなさいよ。それともレイアに聞いた方が良いかしら」
「レイアがあなたと話すとでも?」
レイアは冒険者が嫌いなことで有名NPCだ。だからヨルガノ君が普通にレイアと話していてとても驚いた。
今は私の他にドロシーちゃんも普通に話せているようだけど、それでも冒険者嫌いに変わりはない。
「だからあなたが聞いてくるの」
「私?」
「そうよ。これはクランマスターからの命令です。レイアなら事情を知っているはず。だから聞いてきてちょうだい」
「はいはい。分かったわ」
「やけに大人しいわね。ねぇ、本当はどこまで知ってるの?友人として答えて」
友人としてって、それは卑怯じゃない?
「ならあなたも友人として聞いてよ。クランマスターとしてじゃなくて」
「良いわよ」
「称号をもらったプレイヤーに心当たりはあるわ」
「そうなの!?なら何で隠そうとするの?」
「おそらくこの事を公開したら彼は私との付き合いをやめる。それが分かってるから」
「何でそんなことを言い切れるのよ。分からないでしょ?」
分かってるのよ。だって私は映画を見てしまったから。
「彼はある映画のキャラクターでロールプレイをするためにこのゲームを始めたの」
「それはみんな一緒でしょ。このゲームはそういうゲームなのよ?」
「違うわ。あの人は言ってたわ。『ワールドストーリーやイベントに参加するつもりはない』と」
「はぁ?なら何をするつもりなのよ」
「映画の世界をこのゲームで再現するつもりなの。私達と遊ぶ目的が根本的に違うってわけ」
熱量が違うのよね。今もゲームを楽しんでいるはず。
「それって楽しいの?」
「ゲームを楽しむ理由なんて人それぞれよ。あなたも分かってるでしょ?」
「そうだけど…」
問題はここから。ここからは映画を見て分かったことだ。
「彼がロールプレイしているキャラクターは基本的には良い人間よ。ただ一度敵認定したら話ができなくなるわ」
「どういうこと?」
「言った通りよ。同じ言葉を繰り返したり無視をしたりと様々。でね、ここからが問題なの。この前の件で、私はあの人に敵認定されかけてると思う」
「何をしたの?」
「無理やり話に入ったり、その人の持っている情報をアイテムと交換で聞かせてもらったりしたわ」
今思うとやりすぎた感はあるわね。でも情報も欲しかったし…。
「それがボスコの街の件なのね。紫羊やモンスターとのフレンド登録、ワイバーンと情報量が凄かったわ」
「そういう事。分かった?」
「分かった?じゃないわよ!あなたがもっと上手くやっとけば済んだ話でしょ!」
それは…。そう。分かっていても言われるとイラっとする。
「仕方ないじゃない!目の前にワールドストーリーの進行に関わる情報がやりとりされそうだったのよ?あなたも無理をしてでも話に参加させてもらうでしょ?」
「…。否定はできないわね」
「でしょ?結果としてやり過ぎてしまったわけだけども」
ヨルガノ君から連絡がくるまでは大人しくしておこう。
「だから詮索するなと?」
「やるのは良いけど私は巻き込まないで。彼のテイムモンスターともう会えないのは悲しいし」
「テイマーなの!?」
「そうよ!あの人のテイムモンスターはとても可愛いのよ~」
マックスちゃんとベラちゃん。元気かな~。ルリアとまた遊んであげてほしいな。
「もしその人が英雄になったのならテイマー初の英雄じゃない!」
「そうね~」
「反応薄いわね」
「彼はもっと面白いことをしてくれる気がするのよ。だから関係を終わらせたくないの」
「ふ~ん。なら私が直接会いに行ってくるわ」
こいつは何を言ってるんだ?話を聞いてなかったでしょ。
「今まで何を聞いてたの?あんたじゃ無理よ」
「誰の紹介なの?」
「言うわけないでしょ」
「なら自分で調べるわ。というかもう分かっちゃったのよね~」
後藤がメニューを開いて私に掲示板を見せてきた。
マックスちゃんとベラちゃんのスクショ!こんな掲示板があったなんて…。
「ここまで分かっていれば後は普通に近づくわ」
もう関わらないようにしよう。何かあっても私は関係ないし。
「私の名前は絶対に出さないでね」
「分かってるわよ~」
私はそのまま部屋を出て行った。疲れた…。
そういえばヨルガノ君にあげる予定のアイテムを決めないとな~。どうせならマックスちゃん達にも使えるアイテムにしようっと!
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