デルタさん
カンタのお店を後にした俺達はアーノルドさんの露店にやってきていた。
もうお客さんもいないようでアーノルドさんも座布団に座ってメニュー画面をいじっている。
「暇か?」
アーノルドさんに声をかけると彼は頭をあげて視線をこちらに向けた。座布団から飛び立ち俺の目の前を動き回っている。
「どうしたヨルガノ。もう戻ってきたのか?武器に何か問題でもあったか?」
「違う」
アーノルドさんから個チャの申請が飛んできた。俺はすぐに承認する。
「それで?どうした」
ヨルガノ:
飛行モンスターに攻撃できる武器ってありますか?
「飛行モンスター?この近辺にそんなモンスターはいなかったはずだが…」
ヨルガノ:
さっき遭遇しましてね。ほぼ攻撃手段がないことに気づいたんですよ。ちょっとこのままだと不味いかなと思いまして。
「せっかく作ったつるはしも空を飛んでるモンスターじゃ意味がないわな~。にしても空のモンスターか…。そういえば映画のヨルガノも鳥には悩まされてたな」
ヨルガノ:
そうです。育てていた野菜を狙われてました。あのシーンでは案山子を立てて対策してましたが…。そう考えると野生の鳥はヨルガノの天敵と言っても良いかもしれません。
「確か案山子で対策してたよな?でもあの映画が作成された時と今では時代が違うからな。ん?ヨルガノ。遭遇した飛行モンスターはどうやって倒したんだ?逃げたのか?」
ヨルガノ:
マックスの魔法です。強力ですが燃費が悪いんですよ。
「なるほどな。ん~。どうしたものかなぁ…。悪い。ちょっとすぐには思いつかないわ」
ヨルガノ:
そうですか。普通はどうやって空を飛んでいるモンスターと戦うんですか?
「魔法かテイムモンスターかな。あと弓だ。でもお前は弓が嫌だろ?」
弓!完全に忘れていた。でもヨルガノに弓はないな。俺のロールプレイに反する。
ヨルガノ:
はい。嫌です。
「そうなんだよな~。分かってたから提案しなかったんだがよ。そうなると、あとは投擲系になるんだが…。お前さん、『投擲』のスキル持ってるか?」
ヨルガノ:
持ってないですね。持ってないとダメなんですか?
「せっかく良いアイテムを持っていても当たらないと意味がないだろう?『投擲』スキルがないと全くと言っていいほど当たらない。儂も散々試したからな!」
その体だから難しいのでは?
ヨルガノ:
じゃあ現段階では無理そうですね。
「そうなるわな~」
ヨルガノ:
分かりました。ちょっと私も方法を考えてみます。
「悪いな。役に立てなくて」
ヨルガノ:
いえいえ。相談に乗ってもらって助かりました。また来ますね。
「またな!マックスとベラにもよろしくな」
マックス達は俺の腕の中で睡眠中。さっきお肉を食べたから眠たくなったんだろう。あれだけ食べれば眠たくもなるさ。
俺はアーノルドさんに別れを告げてデルタさんのお店に向かう。大通りを歩いていると周囲のお店も活気づいているな。俺も入れるのなら覗いてみたいものだ。
デルタさんのお店に到着したので俺はフレンドメールを送った。デルタさんには悪いが店の外に出てもらわないと俺は購入できないからな。
店先に並んでいる野菜を見ているとマックス達が目を覚ます。地面に降ろして2体を自由にさせるとマックスはデルタさんのお店の商品である野菜にゆっくりと近づいている。野菜相手に警戒してるのか?頼むから大人しくしててくれよ。
ベラは俺の足元で大人しくしてるな。
「お待たせしました~。ヨルガノさん、こんにちは!マックスちゃん、本当に進化してる~!尻尾が可愛いわね!ベラちゃんも元気そう!」
お店の中から毒大蛇のデルタさんがやってきた。今日も体の色がとても禍々しい。見た目と声のギャップが凄いんだよな。
マックスとベラがデルタさんへ駆け寄っていく。プレイヤーと知らなかったら確実に攻撃指示してただろうな。本人には言わないけど。
「こんにちは」
「ヴァン!」
「コッコ~」
すぐにデルタさんから個チャが飛んできたので承認して会話を始める。
デルタ:
今日はどうされました?
ヨルガノ:
デルタさんは喋ってもらって大丈夫ですよ。
「良いんですか?」
ヨルガノ:
私はあくまでロールプレイの一環で短く話すようにしてるだけなんで。気にしないでください。他人に強要するつもりもありませんし。
「では改めて。今日はどうされたんですか?」
ヨルガノ:
野菜を購入したいんですよ。ちょっと必要になりまして。
「料理でも始められたんですか?」
ヨルガノ:
以前頂いたジャルマの実を私の知人がとても気に入ったんですよ。それで他の野菜もプレゼントしようかなと。
運転手の事は言えないのでそれっぽいことを言っておく。知人…。人ではないけど。
「そうなんですか?嬉しいです!何を購入されますか?」
ヨルガノ:
デルタさんのオススメを3種類ほどお願いできますか?数は30個ずつで。
「30個?そんなにいるんですか?」
ヨルガノ:
体がかなり大きい人なので。どんな野菜がありますか?
できれば少しミミッチにもあげたい。あの巨体だから満足してもらえるとは思えないが。
「そうですね~。今日のおすすめは…。ちょっと待っててくださいね」
デルタさんがお店の中へ入っていく。後姿だけみるとモンスターにしか見えない。
すぐにデルタさんは帰ってきた。背中に木箱を積んでいる。
「これとかがおすすめですね」
俺の目の前に木箱を3つ並べた。箱の中には見知った野菜が山積みになっている。
「ヨルガノさんから見て右から二トン、キュルア、オルアです!見て分かると思いますけど、ニンジン、キャベツ、キュウリですね!」
ヨルガノ:
美味しそうな野菜ですね!おいくらですか?
「全部で2000RPで良いですよ」
ヨルガノ:
安すぎませんか?1個当たり30RPもないじゃないですか。
「良いんですよ。美味しいって言ってもらえて嬉しかったので!」
ここで俺が意地になっても仕方ないか。ありがたくデルタさんの申し出を受けいれよう。
ヨルガノ:
分かりました。ありがとうございます。折角なんで私も料理にチャレンジしてみようかな。
「ヨルガノさんは料理のスキルを持ってるんですか?持ってないと地獄ですよ」
ヨルガノ:
そうなんですか?たまたまランダムスキルチケットで当たったんですが…。持ってないとどうなるんですか?
「どんなに頑張って作っても失敗します。多くの方が検証した結果なんですが、ただ肉を焼くだけなのに失敗するそうです」
ヨルガノ:
失敗すると料理はどうなるんですか?
「『生ごみ』というアイテムになります。捨てるしか使い道がありません。料理のスキルを手に入れるために生ごみを作り続ける必要があるんですよ」
それはやる気が失せるな。材料費もタダじゃないのに。リアルでも料理が失敗すると精神的にくるものがある。
ヨルガノ:
なるほど。ちなみに料理をするには何か特別な準備が必要ですか?
「いいえ。リアルで料理をするのと変わりませんから包丁や鍋があれば十分ですよ。これと言って特別な準備は必要ありません。なのでもし何かの作業中に生ごみができてしまったら『これは料理なんだ』と思えばいいと思います」
そんな見分け方は嫌だな。今度フィールドで試しに作ってみよう。
ヨルガノ:
教えていただいてありがとうございます。
「大したことないですよ。ヨルガノさんもいずれ気づいた事です。それよりもマックスちゃん。進化してちょっと大きくなりました?」
ヨルガノ:
そうなんですよ。抱っこするのが大変で。
「え?歩いてもらえばいいじゃないですか」
デルタさんが正論を言ってくる。俺もそう思うんだけどね。マックスの顔を見るとさ~。
ヨルガノ:
私もそのつもりだったんですが抱っこされているベラに嫉妬するんですよ。体が大きくなっても甘えん坊みたいです。
「可愛いじゃないですか!良いな~。そうだ。スクショ良いですか?
ヨルガノ:
良いですよ。好きなだけ撮ってください。
野菜をサービスしてもらってるんだ。これくらいで良ければ好きなだけ撮ってもらおう。マックスとベラも喜んでいるようだし。
でもあの姿でどうやってスクショを取るんだろう。
マックス達は前と同じようにデルタさんの背中に乗って遊んでいる。デルタさんもその状態でスクショを撮っているようだ。ちょっとした曲芸みたいに見えるな。
「ありがとうございました!」
ヨルガノ:
いえいえ。むしろ遊んでもらって助かりました。そういえば先日、掲示板でマックス達の画像を見た人に話しかけれたんですよ。
「そうなんですか?あの掲示板かな。変なことを言われませんでした?」
ヨルガノ:
良い方でしたよ。マックス達におやつをくれましたし。ちゃんと許可を取ってもらえましたから。
「良かったです。にしても誰が掲示板に画像を…」
ヨルガノ:
たぶん山田さんですね。私が許可したので。
「学校であったら注意しておきます」
俺は別に気にしてないからほどほどにしてあげてほしい。
ヨルガノ:
私は気にしてないので大丈夫です。ではそろそろ失礼しますね。今日は野菜ありがとうございました。
「私もマックスちゃん達と遊べて楽しかったです。またのご来店お待ちしております!」
俺はまたマックス達を抱き上げて東の入口にある宿屋へ向かった。
一度休憩してから白鉄山に行く予定だ。このままだと8時間で強制的にログアウトされるからな。楽しすぎて時間を忘れてしまうから困るよ。
ログアウトしてリアルで食事や洗濯なんかもしたいからちょうど良いかもな。ついでにネットで鳥の対処法を調べてみよう。
東の宿屋へ近づくにつれてプレイヤーがいなくなっていく。相変わらず人気なさすぎだろう。静かすぎてちょっと怖いんだよ。
宿屋に到着したので中に入るといつも通りレインが立っている。
ルーティーンになっているセーブを行い、レインに話しかけ部屋で休む。
休憩したら白錣山でいろいろと検証だ!
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