白鉄山

 レイアの後を追って外に出ると目の前には採掘場らしき場所が広がっている。鉱山への入口らしき穴もあるぞ!もしかしてあの穴の中が新しい狩場かな?

 周囲を見ると自然が全くない。地面も土から砂利になっていて岩が無数に転がっているだけだ。白鉄山って岩山だったのか。


 それにしても寂れてるな。プレイヤーは誰もいないし。人気がない場所を希望したのは俺だけども…。


 だが俺にとっては最適の狩場になりそうだ。この場所は俺の採掘(採取)の練習にもなるしな。

 だが少し気になる点もある。誰かから俺の好みを聞いたのか?

 周囲を見ていた俺にレイアが話しかけてきた。


「どう?あなた好みだったでしょ?」

「斎藤から聞いたのか」

「うん。さっきの武器もこういう場所で使うものだろうし」

「だいたい合ってる。敵はあの中か?」

「違うわヨルガノさん。あの鉱山の中には入らないでね。これは警告よ。あなたのレベルではまだ無理」

「分かった。やっぱりあれが鉱山なのか…」


 入ってみたいが我慢しよう。めちゃくちゃ入ってみたいが。


「そうよ。あの中に入りたいのなら…。そうねぇ、少なくともここで出てくるモンスターをあなた一人で倒せるようにならないと無理ね。私は暫くここで狩りをするのをオススメするわ」


 俺一人で?ベラの補助なしでの戦闘はかなりキツイな。あの穴はしばらく無視することにしよう。

 

「分かった」

「よろしい。私はここまでね。案内もできたし帰ることにするわ」


 レイアはベラを地面に降ろす。ベラはこっちに走ってきた。やけにあっさり帰るな。でも助かった。


「助かった。ありがとう」

「ワーム便の事は誰にも言わないでね。まぁ言っても無駄なんだけど」


 レイアが切り株の方を見ている。

 ワーム便を利用するには条件があるのか。まぁ率先して話そうとも思わないし。


「分かった。約束しよう」

「楽しかったわ!また会いましょうね。ヨルガノさん達も頑張ってね~」

「じゃあな」

「ヴァン!」

「コッ~!」


 レイアが手首を触る仕草をすると消えていなくなった。転移ができるアイテムもあるんだな。いずれゲットしたいものだ。


「マックス、ベラ。今から狩りをしても大丈夫か?」

「ヴァン、ヴァン!」

「コッ!」


 マックスは俺の周りを走り回り、ベラはその場でジャンプしている。やる気は十分みたいだな。


 俺も『粉砕のつるはし』を装備した。これで準備万端。

『呼びつけの笛』をアイテムボックスから取り出して勢いよく吹く。


「ピュイ~」


 山の麓にいるせいか音がかなり響く。どんなモンスターが出てくるのかな?


「ケッケ!」


 鳴き声は聞こえるが姿は見えない。どこだ?


「ヴァン!」


 マックスが俺の肩を踏み台にして頭上へ飛び上がった。

 するとモンスターの鳴き声と共に地面に映る影が遠ざかっていく。今度のモンスターは飛行型か~。面倒だな。


「ヴ~!」


 どうやらマックスの攻撃は当たらなかったらしい。

 空を見上げると茶色い鳥が飛んでいた。もっと近寄ってくれないと俺の攻撃も当たらないな。


「マックス。雷魔法で狙えるか?」

「ヴァン!」

「よし。頼む」

「ヴ~、ヴァン!」


 マックスが吼えると鳥が地面に落ちてきた。攻撃が命中したんだな。でもまだポリゴンになっていないから生きているようだ。

 俺達は止めを刺すために走ってモンスターへ近づく。麻痺しているのか動かない。


 そのままつるはしを振りかぶって止めを刺した。ドロップしたアイテムは『キルッキの嘴』が2個。

 あの鳥は『キルッキ』というらしく、大きさは50センチくらいだった。

 特徴的なのは嘴。ドロップ品を見て思ったけど、これキツツキがモチーフのモンスターでしょ。名前もそれっぽいし。


 でも困ったな。

 俺とベラは飛行型モンスターに対して攻撃手段を持たない。街に帰ったらアーノルドさんに相談しよう。

 マックスの雷魔法もMPの都合上、2回しか打てないし。


『呼びつけの笛』を笛をもう一度吹いて飛行型モンスターが出てきたら撤退するか。


「マックスよくやったな」

「ヴァン!」


 近づいてきたマックスの頭を撫でる。


「コ~」


 ベラも近づいてきたが先程の戦闘で何もできなかった事を気にしているようだ。


「ベラ。気にするな。俺も何もできなかった」

「コッ?」

「次を頑張ろうな」

「コッ!」


 さて。次は何が出るか。

 俺はもう一度『呼びつけの笛』を拭いた。


「ボォ~!!」


 呼び出されたモンスターはとても硬そうな牛だ。おそらくだが牛の皮膚が岩のように見える。軽自動車くらいのサイズはあるな。呼びつけの笛のせいで怒り狂っているな。

 今までで一番怒っているかも…。でも飛んでいないのならこっちのものだ。


「全員で戦うぞ。ベラ、1番だ!」

「コッ!~~♪」


 俺はベラに使用してもらうバフ、デバフのスキルを組み合わせて番号をつけた。

 1番は『スキルを全部使え』

「応援歌」で俺とマックスにバフをかけ、「雲の涙」と「霧夜」で機動力と視界を奪う。ベラが現状でできる最強の組み合わせだ。


 岩牛(仮)の動きが鈍くなった。

 一足先に岩牛(仮)のもとへたどり着いたマックスが「爪撃」で攻撃を加える。


「ボォ?ボォ!」


 岩牛(仮)は逃げ出そうとしている。マックスの攻撃が通ったからか?

 あの体、防御力に自信がありそうだもんな。逃がすか!


 マックスが岩牛(仮)の逃げている先に回り込んだ。

 岩牛(仮)は俺の方へ逃げてくる。マックスよくやった!


 俺はつるはしを持って正面から岩牛(仮)を待ち構えた。それはさながらバッターボックスに立つ野球選手だ。

 岩牛(仮)が俺の間合いに入った瞬間、スキル「フルスイング」でつるはしを顔面に叩き込んだ。


「ボォ…」


 岩牛(仮)がポリゴンになって消える。鑑定するとドロップ品はモーロックの肉と表示される。これはカンタの店で売るか。


 マックスとベラが俺の元へ集まってくる。


「良いコンビネーションだったな」

「ヴァン!ヴァン、ヴァン!」

「コッ、コッコ!」

「この調子でやりたいが…」


 飛行型への攻撃手段を先に確保しておくか。俺も飛行型へ攻撃したいしな。


 一度街へ帰ることにした俺はマックス達を抱きかかえてワーム便の発着所へ向かった。

 切り株を3回足で突いて移動する。すると発着所にはちょうどミミッチが止まっていた。


「運転手!いるか?」

「いるぞ!ヨルガノ、もう街へ帰るのか?」

「あぁ。ミミッチに乗せてくれ。ほらジャルマの実だ」


 俺はアイテムボックスからジャルマの実を取り出して渡した。受け取った運転手はそのまますぐに食べてしまった。


「美味い!代金は受け取ったから乗っておけよ~。もう少ししたら出るぞ!」

「分かった。運転手。ミミッチは食べないのか?」

「ミミッチ?こいつも食べるが…。体の大きさを見たらわかるだろ?」


 運転手がミミッチを指さす。分かるよ。新幹線サイズの大きさだから大量にいるってことだろ?


「そうだな。運転手はジャルマの実以外も食べるのか?」

「野菜なら何でも食べるぞ!」

「分かった」


 この後の予定が決まった。アーノルドさんの露店の後にデルタさんのお店に行くとしよう。


 俺は嫌がるマックスをミミッチに乗せて異文化交流街に戻ってきた。

 ミミッチの体から降りると運転手が待っていた。


「また利用してくれよな!」

「すぐに戻ってくるぞ」

「たぶん次の運転手は俺じゃないからな。違っても驚かないでくれ」

「分かった」


 運転手に別れを告げて地上に戻る。レイアから教えてもらっていた東側の入口から街の中へ入っていく。東側の入口付近にも宿屋があった。

 セーブをするために中に入るとレインがこちらを見ている。お前、宿屋なら何処にでもいるのな。


「いらっしゃいませ、ヨルガノさま。珍しいですね。こちらの宿を利用されるとは」


 セーブが終わるとレインが話しかけてきた。俺は受付へ歩いて行く。


「白鉄山に用があってな」

「なるほど。どうでした?」

「俺好みの場所だ」

「そうですか。あそこにはキルッキがいます。気をつけてください」

「そいつなら倒した」

「…。さすがヨルガノ様です。余計なお世話でしたね」


 こいつ、また言いたいことを我慢したな。まぁ良いけど。


「また出てくるぞ」

「お気をつけて」


 どうやら東側の宿屋から街の中心部へ続く道は一本道のようだ。とても助かるな。

 俺はいつも通りマックス達を抱き抱えて歩いている。マックスは抱っこしてもらってご満悦。でも次の進化でこれ以上大きくなるともう抱っこできないぞ?


 俺の理想のマックスの姿とはかけ離れているけど、この子に俺の理想のマックス像を強要はできない。マックスのIFルートとして捉えておこう。


 見覚えのある道に出たのでそこから露店が集まっている場所へ移動する。今日はプレイヤーが多いな。ダンジョンから戻ってきたのだろう。

 そういえばダンジョンって結局どんな場所だったのか気になるな。今度山田さんに会ったら聞いてみよう。


 アーノルドさんの露店へたどり着くと先客がいた。知らないプレイヤーだ。

 邪魔をしても悪いので暇つぶしにドロシーさんの店を覗く。相変わらず行列ができている。人気そうで何より。となると…。


「それでうちの店にやってきたの?」


 カンタがあきれた様子でこっちを見ている。

 仕方ないじゃないか。行く場所がないんだし。それにちゃんと商品は買っただろ?


 足元でマックス達がお気に入りの肉を食べている。俺も食事中だ。


「商品は買っている」

「そうだけど。暇つぶしって…」

「そうだ。これを」


 俺は先程ゲットしたモーロックの肉を見せる。


「これは買い取ってくれるか?」

「モーロックの肉じゃないか!良いの?」

「お前が良ければな」

「買います!ぜひ買い取らせてください!350RPでどう?」


 350RP?ウルフの2倍以上じゃないか。良い金策になりそうだな。


「それで良いぞ」

「数はいくつあるの?」

「今はそれだけだ。これから狩りに行く」

「本当!?絶対にここに卸してよ?」


 カンタのテンションがおかしいので理由を聞いてみた。


「人気な肉なのか?」

「獣人にはって感じかな。ごちそうだよ!白鉄山に行ったの?」

「そうだ」

「あそこ、何もないでしょ?だから冒険者にも人気がなくって。モンスターもあまり出る場所じゃないから狩ってきてくれる人がいないのさ」


 俺が最初に狩場で使っていた場所と一緒か。


「確かに誰もいなかった」

「そうでしょ?もしモーロックの肉が入ったらよろしくお願いします!」

「分かった」

「どうぞ、これサービスね!マックス達にもな!」

「ヴァン!」

「コッコー!」


 ここまで喜ばれるとは思わなかったな。どうせ狩りのついでだ。ゲットできたら持ってきてあげよう。


 俺は肉を食べながらメニュー画面を開き、デルタさんへフレンドメールを送る。運転手用の野菜を買いたい。

 デルタさんはお店にいるらしいので後で寄らしてもらおう。


 さて、マックス達が食べ終わったらアーノルドさんのお店に行くとするかな。

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