第11話

 今日はリコだけじゃなく、お母さんも一緒に河川敷に来た。

 僕はお母さんに出来る事を見せたい。


 ダッシュを何回もやった。


「僕元気になったよ!」

「ええ、そうね! お母さんびっくりしたわ!」


 次は前後左右にステップを踏む訓練を続ける。


「タイヨウ! お母さんに炎も見せて!」

「うん!」


 右手を上げてその上にサッカーボールほどの大きさの火球を作った。


「すごい!」

「ええ、タイヨウ君は魔力の放出、そしてコントロールをある程度出来ます」


「だから、急に元気になったのね? 家ではいつもすばしっこくて元気がありすぎるくらいよ」

「お母さんが来て特に張り切っています」


「それだけじゃないと思うわ。注射がもうすぐ無くなるって分かってからあの子は元気がありすぎるの」

「ふふふ、分かりやすいですからね」

「ええ」


「タイヨウ! ファミレスに行こう!」

「ええ! ファミレスはお金持ちが行くところだよ!」

「大丈夫、私が奢るから!」

「リコはお金持ちだからね!」


「違うよ! 早くいこう!」

「うん!」


 電車に乗ってファミレスに向かう。



 僕は前より大人になったから電車に乗っても寝ない。

 ファミレスに入ってメニューを開く。

 すぐにハンバーグの所を開いた。


「1000円、超えてるのもある」


 不安になってリコの顔を見た。


「大丈夫、任せて」

「あの、私が出すわ」

「ダメです。タイヨウ君のおかげでアルバイトが出来たんですから」


「……僕、ライスだけでいいよ」

「いいから、これと、ライスとスープが好き?」

「そうだけど」

「はい、決まり」


「ユウコさんは?」

「……そうねえ、ごめんなさいね。私、選ぶのに時間がかかるの」

「いいですよ」


「「……」」


「決めたわ」


 僕はだらだらと汗を掻いた。

 みんなの分を合わせると5000円くらいする。


「タイヨウ、大丈夫だから」

「う、うん」


 リコが注文を頼んだ。

 しばらくすると、じゅ~っといい音がする鉄板に乗ったハンバーグが運ばれてきた。


「タイヨウ、どうしたの?」

「今日は、一生の思い出になるね。ご馳走だよ」

「そんなことないけどなあ、さあ、食べましょう」

「うん」


 いい匂いがする。

 ハンバーグを割ると肉汁が出て来て、口に入れるとおいしいが広がる。

 ご飯も一緒に口に入れるともっとおいしい。


 夢中になってハンバーグを食べた。

 お腹がいっぱいになると眠くなってくる。

 電車に乗ると、目が重くなって来て、体も重くなってきた。



 ◇



【リコ視点】


「寝た?」

「……」


 タイヨウがお母さんに寄りかかって眠る。

 タイヨウは元気になって良く走り回るようになった。

 下ろしていた前髪はいつも風を受ける為上に上がっている。



「寝たわ」

「来るときは『僕大人になったから寝ないよ』って言ってたのに」

「ええ、まだ子供よねえ」


「タイヨウ君はファミレスがお金持ちの行くところだと思っていますよ?」

「あれは、私がそう言ったの。貯金に余裕を持たせたくて」

「そう、なんですね」

 

 その言葉だけで家庭が苦しい事が分かった。


「リコちゃん、タイヨウがこんなに元気になったのはあなたのおかげよ、ありがとう」


「いえいえ、本番はここからです。もうすぐ来る小学校の入学。そこをうまくこなせばようやく一安心です」

「リコちゃんはもうすぐ中学校よね?」

「はい」


「リコちゃんを見ていると子供とは思えないわ」

「そんな事はありません。タイヨウ君に会う前の私はいじめられていて、家族に相談する事も出来ませんでしたから。私はタイヨウ君のおかげで変われました」


「それを言うなら、私もタイヨウに酷い事を言ってきたわ。『立派にならなくていい、生きていればいい』そんな事、今考えたら言ってはいけない言葉だったわ」

「私には家族がいました。そしてユウコさん、何かあったら家族にも私でもいいのでなんでも言って下さい」


「欲を言うとね、リコちゃんとタイヨウが6歳差よりもっと年が近かったら小学校はもっと安心だったわ」

「それは難しいですね。でも黒いスーツの、体が大きくてクマのような人がいますよね?」

「え、ええ」


「タイヨウ君が心配だから有休を取って学校生活を遠くから見守るようです。入学の次の日が心配みたいで」

「助かるけど、そこまでしなくても」

「でも、結構何でもする人みたいです。顔に似合わず」


「決めた、小さなことだけど、パートの時間を増やしてみるわ」

「応援しています」


 私も、タイヨウも、ユウコさんも、みんな変わっていく。

 きっといい方向に向かっているんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る