第9話 銃ゲット

 ドリスさんが見せてくれた武器の形状は、いわゆる拳銃である。


 一丁は、オーソドックスなリボルバータイプを手に。

 

 モモコの取った中は、銃口が細く、大きなマガジンを収納する場所があった。


「使い方がわからないので、ワタシたちは【ほうきの柄ブルームハンドル】と呼んで、保管していたのです」


「ブルームハンドル!」


 なるほどね。いいネーミングだ。


「なんか知ってるの、クニミツ?」


「ブルームハンドルってのは、こういう銃のグリップの形状だ」


 ホウキの柄のように細く、手が小さい東洋人に親しまれた形状である。 


 銃を手に取った瞬間、頭の中に【魔銃のレシピ】が浮かんだ。構造がわかるようになったらしい。


 これで、オレたちにも銃が作れるようになったわけか。


「しかし、銃弾がねえ」


 どうやって、弾丸なんて調達するんだよ?


「この形状ってさ、アニメとかでもよく見るよね」


「そうだな。中二病持ちのヒロインが持ってるアニメで、有名になったぞ」

 

「クニミツ。これ、ひょっとすると」

 

 おもむろに、モモコが魔導書をマガジンに当ててみる。


 ひとりでに、魔導書がマガジンルームに収まった。


「これさ、アイテムを弾倉代わりにして、魔法を撃ち出すんだよ。きっと」

 

「すげえな。どうやって使い方を覚えた?」


「なんとなく」


 さすが令和世代、脅威の適応能力である。


「クニミツなら、もっと実用的なのがお好みかもね」


 モモコからの問いかけに、オレはうなずいた。


「だからオレは、こっちを選んだってわけさ」


 武器ってのは、見た目や威力がすべてではない。取り回しが利くかが、基本だからな。

 

 試しに、オレもショートソードを手にとってみた。もう使わない、不用品である。


「おお、弾倉に変わった」


 使わない武器類は、こうやって弾倉代わりにすればいいのか。不用品の扱い方が、見えてきたぜ。


「ねえウニボー、質問していい?」


「いいモジャ」


「ひょっとして、私たちが強くなったことと、今回の事件って関係ある?」


 どういう意図の質問なのか、オレはすぐにはわからなかった。


「モモコ、どうしたんだ?」


「いやさ、私たちが変に『銃が欲しい』なんていったから、世界がアップデートされちゃったのかなって。ここで銃が手に入るなんて、タイミングがよすぎるよ」 


 銃は強力な武器だ。その分、それに見合うような強い敵を、世界が作り出してしまったのではないか。


 モモコは、そう感じてしまったらしい。


「案外、モモコは神経質モジャ。そんなわけないモジャよ」


「そうなの?」


「この世界は、見た目こそ平和モジャ。しかし、ちゃんと侵略者とかはいるモジャ」

 

 表に出てきているヤツらは、冒険者でもどうにか取り押さえられる。


「オイラたちが向かうのは、『世界の裏側』モジャ。ダンジョンの行き止まりまで進むと、結界があるモジャ。オイラたちは、その奥に向かうモジャ」

 

 世界の裏側といって、闇が支配するダンジョンがあるという。


「普通は介入できないモジャ。でも、魔の存在はそこから弱いモンスターを次々と送り込んでいるモジャ」


 なるほど、世界にモンスターが途絶えないのは、そのためか。 


「どうするモジャ? オイラたちだけで行ってもいいモジャ。足止めくらいはできるモジャ。無理する必要はないモジャ」

 

 オレとモモコは、同時にうなずいた。


「結論は出ている。もちろん行くさ。なあ、モモコ」


「クニミツの言う通り。私たちならできるよね」


「銃を撃つ、最高の口実だしな」


「うん。弱いものいじめをする奴らなんて、銃の的って末路がふさわしいよ」


 言動はおっかないが、モモコのキレ具合は本物だ。



「装備の準備をしよう。防具の見直しをしたい」


「うむ。事前の調整は大切だ。参ろう」


 自分たちの家に、ルイーゼを案内する。


「ここが、キミたちの家か。愛の巣というより、ラボって感じだな……」


 唖然とした顔になりながら、ルイが家の外や中を眺めている。


「準備するから、お茶でも飲んで待っていてくれ」


「ここのお茶は、おいしいモジャ」


 ウニボーに催促されて、ルイーゼがお茶を飲む。


「ん? うまいっ」


 ルイーゼが目を見開いた。


「緑色のお茶だから、薬草の苦味が来ると思っていた。甘いなぁ。お茶菓子もソイソースが効いている」


「せんべいだ。飲み物は緑茶っていうんだ。紅茶と茶葉は変わらない」


 オレと湯呑を交互に見ながら、またルイーゼが目を丸くする。


「不思議な味だな。うまい」


 ルイーゼたちがお茶を楽しんでいる間、オレたちは装備の確認をした。 


 オレたちは不要な装備品を、【かまど】で【鉄インゴット】に変えられる。これを使って、新たに装備を作り直すのだ。


 とはいえ、まだレアリティの高い武器防具は作れない。何事も、時間がかかる。とはいえ、自力で作っていかなければレア装備が作れない。


 全身金属ヨロイを、【キュイラス】から【プレートアーマー】に更新する。レアリティはつかないが、店売りよりは強いかな。


 モモコも【レザーアーマー】から、【チェインメイル】へ。制服の下地が、鎖かたびらになったらしい。


「でもいいのか? もらいものにケチを付けるわけじゃないが、銃って言っても初期装備だぜ」


 銃と言っても、さして殺傷能力は高くない。ガチで自己満足の世界だ。こちらの世界にある魔法などの方が、案外強いかもしれない。だが、そこは戦闘力でカバーする。


「クニミツは、どういうファイトスタイルにする? あんた大剣じゃん」


 オレが背負っている大きな剣は、両手持ちだ。盾を構えることができない。


「スイッチする。近接は、大剣で殴る。そのためのスキル構成にしてあるからな。銃が手に入ったから、中・遠距離戦闘では盾を構えつつ撃つ」


 オレは五角形の盾【ヒーターシールド】で、上半身を覆う。リロードも、盾を構えながら可能だからな。


「お前は?」

 

「魔法使っていた当時と、変わらない。私はアタッカーでしょ。中・遠距離では、かく乱役」


 戦闘スタイルは変えず、防具だけ更新する。

 

「よし。行くぞ」


 ダンジョンは、すぐ近くにあるという。


「ていうか、うちの側じゃないか!」


 目的のダンジョンは、オレたちの家の近くにあった。


「オレたち採掘や採集をしていた、洞窟じゃないか」


「世界の裏側は、どこのダンジョンからでも出入りできるモジャ」


 とはいえ、奥地を封じる結界が、だんだんと弱まってきているそうだ。だから、ドリスさんの息子が弱っているらしい。


「どうして、こんな敵地のど真ん中に?」


「相手も余裕がないからモジャ。早く復活させたいモジャ」


 オレとウニボーが話していると、モモコが突然「そう言えば!」と手を上げた。


「どうしたよ。モモコ?」


「薬草屋の娘!」


「それがどうし……ああ!」


 そういえば、薬草屋の娘が襲われていたのは、このダンジョンが近かったな!


「だとしたら、世界の裏側から攻め込んできたって可能性も」


「否定できんってわけか」


 だから、ウチの近くから襲いかかろうとしていたようだ。


「そのウルフって、どうなったモジャ?」


「この間、アンタが食べた」


 モモコが、ウニボーの腹を指差す。


「だから、あのカレーはあんなにおいしかったモジャ? あれはウルフの中でも結構強い種類モジャ。どうしてあんなところにいたのか、不思議だったモジャ! 謎が解けたモジャーッ!」


 やはり、このダンジョンの裏には秘密の通路があるようだ。 

 

「しかし、オレたちが採取で使いまくっていたせいで、魔物がビビった、と」


「そうモジャ。きっとそのウルフは、偵察用に放たれた魔物モジャ」


 斥候のウルフがやられたので、ここを襲撃用ダンジョンとして利用できなくなったわけか。

 


 ダンジョンの行き止まりまで、たどり着く。


「今から、裏側への道を開けるモジャ。う~ん、モジャモジャ……」


 ウニボーが、呪文を唱え始めた。

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