第10話 乱れ撃ち

 ルイーゼが、盾を前方に構えて、剣を抜く。見た目は刀っぽいが、聖剣らしい。刀身に祝福の言葉が刻まれていて、柄の装飾も美しかった。


「クニミツ! 刀、刀!」


 おお、モモコが興奮しているぜ。

 

「この刀が、気になるか?」


 ルイーゼが、剣をよく見せてくれた。


「これは聖剣【ゼファー】といってな。文字通り【風神ゼファー】の力がこもっている。嵐を起こせるのだぞ」


 剣自体に、そこまでの強度はないらしい。しかし、魔法の威力は高いという。


「サイズからして、長ドスだな」


 デザインは刀身が湾曲していて、ドスと言うにはファンタジックである。


 そういうファイトスタイルも、あるとは。


「刀かー。うらやま」


 この事態に、モモコはルイーゼの剣に見とれている。


「気になるか?」


「聖剣とか、魔剣とか、刀とか、そそるっ」


「ドロップできたらいいよな。あるいは、自分で作ってみるか」


「ひとまずドロップアイテムで、この世界の美的センスを知る。学びつつ、自作する」


 それでこそ、中二病だ。



「いいモジャ。異界への扉が開いたモジャ」


 世界の裏側への、道ができる。


「わたしが先行する。二人は――」


 ルイーゼの言葉を待たず、オレたちは突撃した。

 

「突っ込むぞ、モモコ」


「クニミツの方こそ、遅れないで」


 敵発見。先日と同じく、オーガだ。


「くらえ!」


 さっそくオレは、リボルバーをぶっぱなす。ドシンという思い感触がオレの骨に響く。これでこそ重火器だ!


 眉間を撃ち抜かれ、オーガが足から崩れ落ちる。


 二撃目で、オレは心臓を撃ち抜く。トドメを刺すことも忘れない。


「すごいじゃん、クニミツ」


「たまたまだ」


 こちらが銃を持っていないと思って、油断したのだろう。おそらくもう、この戦法は通じない。ここからは、戦闘スキルを上げなければ。

 

 モモコは殺傷能力の低いオートマチックを連射した。相手をハチの巣にする。


 敵は、穴だらけになっていた。もう生きてはいまい。


「銃スキルが、ツリーに出現したね」


 拳銃を装備したことで、新しい武器スキルが更新されたようだ。


 ひとまず、なるべく多くポイントを振る。主に、命中精度を上げた。当たらなければ、どうにもならない。


「モンスターも射撃武器を、ドロップするようになったっぽい。弾もマガジンも共通」


 武器の手入れをしながら、モモコが教えてくれる。


 いらない武器の代わりに、弾倉がドロップするようになったらしい。


 だったら、その都度強い武器に変換すればいいか。 


 オレたちは、敵が落としたアイテムを回収する。

 

 手甲と一体化した盾は、使えそうだ。これは、オレがもらっておく。


「今のは、なんだ? 弓か? 小石サイズのファイアーボールか?」


 銃撃を見たことがないのだろう。ルイーゼが真っ青な顔になっている。


「あれは銃という武器だモジャ。オイラも初めて見たときは、鳥肌モジャ」


 ウニボーが、身を震わせた。


「弱い魔力石の指輪しか、出なかった」


 モモコが、ドロップ品に不満を漏らす。

 

「そうそう。オイラには【アイテム掘り】のスキルがあるモジャ。

 

 ウニボーが、敵の死体をモシャモシャと食べ始めた。血液などは出ない、レイティングに配慮した上品な食い方である。


「出たモジャ」


「おお、ちょっといい感じの魔剣が手に入ったぞ」


 龍の巻き付いた、両刃のナイフだ。修学旅行の土産屋などで見かけるキーホルダーの、実用品版といえるか。


「短剣じゃんっ。武器レベルも低っく。ああでもっ、このフォルムはそそるかも?」


 オレが手甲、モモコは迷った挙げ句、結局魔剣を手に取った。まあ、今後使う武具の素材にはなるだろう。


 新武装を手に、先へ急ぐ。


「あんたの装備は、それでいいか?」


「大丈夫だ」


 新しくなったプレートメイルを、ルイーゼは着込んでいた。オレたちが自分たちの装備品とにらめっこを続けていたのは、ルイーゼの着替えを待っていたからである。


 ルイは、身長がオレと同じくらい高い。一七九はあるのではないか。バスケ部の女子くらいはタッパがある。

 エルフのドリスさんほどスラリと尖っておらず、体型がムチッとしていてラインが丸っこい。全体的に、グラマラスである。

 こんな人が魔物に捕まったら、『くっころ』必至だ。


 とにかく、先へ進む。


「ゾンビが山盛りで出てきた!」


 百匹はいるだろうゾンビが、襲いかかってきた。顔が人間ではないから、グールかもしれない。


「撃ち尽くせ! 【乱れ撃ち】!」


 正面の敵集団に、集中砲火を続けた。


 面白いくらいに、ゾンビたちが溶けていく。


「リロード!」

 

 尖った岩に隠れて、モモコがマガジンを交換した。


「こっちもだ!」


 リボルバーなので、オレのほうが弾切れが早い。ザコ相手なら、モモコの方が早いか。


「【オーラ・スマッシュ】!」


 ルイーゼが、前方のゾンビに向かって、剣を横方向へ凪ぐ。


 オレンジ色に光る衝撃波が、ゾンビの胴体を焼き払った。

 

「うわ、すご」


 あっという間にゾンビが全滅し、道が拓ける。


「この聖剣【ナイトメア・スレイヤー】に、セットされている技だ。遠隔攻撃は、キミたちだけの技ではない」


 悪夢を断つ剣か。


「くう、私も銃に二つ名が欲しい。クロス・ストリングス、デュアルヘッド・シャーク、う~ん」


 対抗しているが、モモコも武器に名前をつけ始める。ろくな名前が出ないようだ。モモコよ、勝負するとことはそこじゃない。


「そういえば、オレもレベルが上ったんだった」


 取りたかったスキルに、ポイントを割り振った。


 まだまだ、ゾンビは溢れてくる。


 これこれ。この大軍団密集こそ、洋ゲーよ。


「くらえ! 【パニッシュ・サンダー】!」


 オレは、大剣を振り下ろす。


 攻撃エフェクトの上空から、雷が飛来した。


 雷に打たれて、オレを囲んでいたゾンビが一瞬で灰になる。


「すっご。なにその技?」


「パラディンの、魔法付加攻撃だな。武器の命中率に関係なく、自分の周辺に雷を落とすスキルだ」


 ゾンビを全滅させたので、先を急いだ。


 両側に崖を挟んだ、細い道を通る。崖の下は霧が立ち込めていて、底が見えない。水の音がするから川のような気がするが。


 カーブを抜けて襲ってくるオーガどもを、銃で撃った。

 

 念じるだけで武器の切り替えが一瞬でできるのは、かなり便利だな。いちいち、装備を持ち直さなくていい。


 撃たれた反動で、オーガの一体が崖の下へ落ちていく。


「しまった。アイテムが」

 

「大丈夫モジャ。倒した地点にドロップするモジャ」


 とはいえ、落としたのは金だけ。アイテムはゲットできなかった。死体がなくなったため、ウニボーに追加で探してもらうこともできない。


「ここは地上とは違う世界モジャ。崖の下に落ちたら、どこへ行くかわからないモジャ」


 なら、落ちないほうがいいな。


「敵が、あまりいいアイテムを落とさなくなった」


 ある程度装備品が完成し、ほかは換金するものしか出なくなっていた。


「じゃあ、【アイテム制御】をするモジャ」


 レア以下のアイテムを、表示しなくできるらしい。落ちたアイテムはスキルの効果により、勝手に金か素材、ポーション系に変わるという。


 オレたちが倒すと、弾薬になった。


 崖を抜けると、広い陸地に着く。


 五二体のオーガ、一〇匹のデカいクモ、二〇〇体のゾンビ、七〇体のグールが集まってきた。


 モンスターは大群な上に、個々のレベルも高い。


「こちらのレベルは、まだ八か。ギリギリだな」


 敵も強くなっている。戦いながら、レベルを上げていくか。


「魔術師タイプが出たよ! あいつだけ、レベル【一六】だって!」


「マジで!? こっちの倍じゃねえか!」


 魔物の大群の後ろに、ツインテールのような角を持った魔女がいる。洋ゲーの敵みたいな造形で、女性キャラなのに萌えない。


 このバタ臭さも、オレはキライじゃないぜ。


 まあ、倒すけどな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る