第2話

 火星には地磁気がない。昔はあったらしい。

 どうもこれがないと大気はすぐにぎ取られて、人間が住めるようには、ならないらしい。

 俺、今、住んでるけどな。


 未来を切り開くお仕事。確かそんなうたい文句だったように記憶している。

 集光式太陽熱炉で作られた強力な磁石を満載したリアカー。引っ張るのは俺。

 俺が見ていた未来はもっとキラキラしていたはずなのに、現実はこのありさまだ。

 ミドさんはさっきから飽きずに『がんばれー!』『ファイトー!』『お水のみます?』と、応援してくれる。

 低重力下でのみ焼結できるマグネター磁石は、減磁ケースの外にまで磁力が漏れ出るほど強力だ。

 この漏れ磁力のせいで、磁力を利用するモータ類や電子機器は近寄れない。

 ミドさんが音声なしのディスプレイだけなのも、この漏れ磁力を嫌ってとの事だが、本人はコストカットだとにらんでいる。

 せっかくの強力な磁石も、運べなければ宝の持ち腐れだ。従って人間様の出番という訳だ。

「リヤカー引っ張って、荷物を穴に放り込むだけの簡単なお仕事」

『リヤカーではありません。モビリティトレーラ七式です。さい先たんですよ。――そ材は』

 どうやら口に出ていたようだ。作業用宇宙服の中のディスプレイ、ミドさんが反応する。

 火星の砂は酸化鉄が主成分ですぐに磁石にくっつこうとする。地球の三分の一の重力とはいえ、大量に付いてしまうとこたえる。

 地球では船が凪いだ海を渡るとき波が扇形に広がるが、あれが砂で再現される訳だから、どんどん重くなる。

 我慢できなくなったら繋がっている砂をたたき落とす。そんなことをくりかえして5キロの道のりを歩むのだ。

 ちょうど結構な重さになっていたので、この叩き落し作業にかかるついでにミドさんに聞いてみる。

「なあ、ミドさん。こっちの砂落としは労働時間だから良いんだが、もうちょっと何とかならんのか」

 すぐに一回点滅、『何とかとは?』

「もっとくっつかないケースにするとかさあ。ないの?」

『ないですね。じ力はあらゆる物体をとうかしますし、これだけじ力が強いと強じ性体でおおったところでやけ石に水ですし、それにそんなことしたらくっついて穴に落とせなくなりますよ」

「せめて、この砂落としだけでも何とかならんのか。引っ張たら首振る子供のおもちゃみたいなので良いからさあ」

『なるほどプルトイですか――』

 ミドさんは珍しく何か考え込んだように、ずっと『――』を出力し続けた。

 何度か呼びかけたが反応がない。

 もしかしたら何か故障したのかと心配し始めたらすかさず、

『どうしました。バイタルサインすごいですよ』

 と逆に心配された。

『あ、なるほど! もしかして故しょうしたかと思いました? 大丈夫ですよ。私しょぼいだけあってがん丈なんですから、それよりですね、できましたよ、し作品のせっけい』

 何から何までばれてて恥ずかしい。

「試作品って何が」

『だからプルトイですよ。引っぱるどう力を使って砂を叩き落す。はやくラインにながして試してみましょう。もう実用新あんは、せい年の名ぎで出しちゃいました♪』


 次の日には、モビリティトレーラは八式になっていた。

 そして俺は、火星初の発明家として、ごく狭い範囲で記録に残ることになった。

 この日は20ポイントの大量獲得した事も書き添えておく。


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