第2話「女子大の女王様、論破空間!」

「男子相手に連勝? 調子に乗ってるみたいね、雑草くん」


次に現れたのは――ピシッと決まった制服風のブレザー、金縁眼鏡に鋭い視線。

その姿はまるで、就活に備えた“完璧系女子”そのものだった。


名札にはこうある。


女塚 めぐみ(おんなづか・めぐみ)

偏差値:50

大学:椿姫女子大学(通称:ツバジョ)


「Fラン男子って、どこかで“女子大に幻想”抱いてるでしょ? 残念、私みたいなのもいるから」


毒舌だ。


「いや、別に女子大幻想とか持ってないし……むしろ怖いんだけど……」


「それ、偏差値37の男が言うセリフじゃないわよ?」


グサッ。


言葉のナイフが刺さる。ていうか、物理攻撃のほうがまだマシまである。


「――論破空間、展開」


女塚が指を鳴らした瞬間、世界が“会議室”に変わった。

ホワイトボード、議事録用ノートPC、そして背後には……ずらりと並んだ“討論委員”たちの幻影。


【スキル発動:《論破空間(ディベート・フィールド)》】


「この空間では、私の発言が“正解”として記録される。反論? あなたに許可はありません」


えげつねぇ能力だな!


しかも――


「偏差値50と37……差は13ね」


【Complex Boost:発動】


【ステータス上昇:+130%】


よし、いける。ギリ勝てる……!


「討論テーマ:『Fラン大学に存在意義はあるか』」


「ちょ、待って!? それ今ここで俺にぶつけるテーマ!?」


「当然。ではまず肯定側の意見からどうぞ。もちろん、あなたね?」


いきなり俺に振ってくるのかよ!


「え、えっと……あると思います!……人それぞれ進む道があって……社会には多様な人材が……!」


「反証します。“多様性”という言葉に逃げた時点で中身ゼロ。加えて、社会が本当に求めてるのは“即戦力”であり、学歴の裏付けのない人材は浪費です」


バシィィン!


議事録ホワイトボードに「×Fラン」と自動記入された!?


「おいおい……ずりぃだろそれ!」


「あなたの“言葉”はこの空間では効かない。“論理的であるとみなされた方”が正義なの」


なんだこの空間。偏差値だけじゃなく、会話も支配されてんのか!


「じゃあ……だったらこれでどうだッ!」


俺は近くに転がってた“学生課に提出し忘れてたレポート”を丸めて投げた。


「物理で論破するな!」


女塚が咄嗟にカバンで受け止める。思ったより強いぞこいつ!


「あなた、やっぱりFランね。“言葉”では勝てないから“暴力”に走る。それが限界なのよ」


(くっそぉ……確かに言葉じゃ勝てない。でも――)


俺の目に、一瞬だけ映った。議事録に、“ごく小さく”書かれた一文。


「意見には“感情的訴え”の評価項目も含む」


(……あいつ、完璧に見せて“抜け”がある!)


ならば、そこを突くしかない!


「なぁ、女塚さん。あんた、ずっと毒吐いてるけどさ……それって、自分を守るためじゃないのか?」


「……は?」


「他人を見下して、バカにして、“自分の位置は上だ”って思い込んで、そうやって自分を保ってんじゃねーの?」


「…………」


「偏差値50って、ど真ん中だよな。平均。つまり“普通”だ。だけど普通って、怖いだろ? 埋もれるから」


「…………ッ」


「だから、毒で目立ってる。“私は他の女子とは違う”って。でも、それがバレるのが怖いんじゃねぇのか?」


「…………っ……!」


ホワイトボードに、新たな文字が浮かぶ。


「感情訴えポイント:+1」


「っ……なんで……私が……こんな……」


女塚の目が揺れる。


「それが……論破空間の……盲点……ッ!」


俺はその隙に、“提出し忘れてた学生証”をブンッと投げた。


「やっぱり物理かァァァァア!!」


女塚の額に命中。バシュウッと青白く光り、彼女は姿を消す。


《女塚 めぐみ、失格》


《偏差値:50 → 脱落》


《敗北理由:感情で揺れて学生証が飛んできたため》


勝った。


俺は、論破されずに勝った。

ていうか、最終的にまた物理で勝った。


……この世界、大丈夫か?


「次は誰だ! 偏差値の数字で人を測る奴は、全部倒してやる!」


そう叫ぶ俺の前に、次の影が立ちはだかった。


「フ……面白い。“偏差値”とは数字ではなく――式だよ」


現れたのは、異常なまでに白衣を着こなす男だった。

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