第1話「開戦!学歴バトルロイヤルへ」

俺は今、偏差値65の男の顔面に教科書を叩きつけている。


いや、ほんとにそうなんだ。マジで。

しかもそれが――妙に気持ちいい。


「な、なにっ……!?」


偏差値65の男――名札には「南野 大翔(みなみの ひろと)」とあった――は、驚愕の顔で俺を見ている。

さっきまで数式のミサイルを飛ばしてきたやつだ。なんか「三角関数ビーム」とか叫んでた。理系のノリはよくわからん。


「偏差値37のやつが、なんで俺の攻撃を……!」


「うるせぇ!知らねぇ!偏差値で殴られた分、こっちもぶち返すだけだ!」


俺は勢い任せに、手にした教科書で再びぶん殴った。物理。完全に物理。


【Complex Boost:発動中】


【ステータス上昇:+280%】


体が軽い。脳が冴えている。自分でも信じられないが、相手の動きがスローモーションに見える。

というか――偏差値ってこんなに戦闘力に直結するのかよ。


「バ、バカな!偏差値が、低いのに……!」


「うるせぇぇぇぇええ!」


ドカッ。ボフッ。ドン!


三連コンボ。すべて教科書。タイトルは『基礎英語 I』『ビジネスマナー概論』『Excel入門』。

偏差値37が誇る三種の神器である。


「ぎゃああああああ!」


南野は悲鳴を上げて、青白い光とともに消滅した。

その瞬間、天井からホログラムが降りてくる。


《南野 大翔、失格》


《偏差値:65 → 脱落》


《敗北理由:Fランに殴られたため》


「……おいおい、理由の書き方が雑じゃね?」


俺は思わずツッコミを入れたが、周囲は騒然としていた。


「見たか!?偏差値37が偏差値65に勝ったぞ!」

「しかも物理で!」

「あいつ……何者だよ……」

「コンプレックス・ブースト……!伝説の“自虐型スキル”か!?」


お、おい、待て。伝説なのかこれ?

俺はただ、劣等感を燃料にしてブチギレてるだけなんだが。


「――やるじゃねぇか、Fラン」


不意に、後ろから声がかかった。

振り返ると、そこにはギラギラしたサングラスをかけた筋肉男が立っていた。


名札には「武骨 仁(ぶこつ じん)」とある。大学名の欄には、「K関学 スポ推」と記されていた。


「偏差値は……42。だが、面接評価はオールSや」


「……何だそのアピール」


「面接力こそが学歴や。偏差値なんて“喋り”でどうとでもなる。つまり――」


武骨は構えた。眩しいくらいに白い歯が、にやりと光る。


「お前のコンプレックス、面接で突破してやるよ」


【スキル発動:《面接全対応》】


バチィン!


突如として、彼の周囲に椅子とテーブルが出現。リクルートスーツの幻影たちが現れ、拍手をし始めた。


「お、おい……なんだこの空間……?」


「俺の一挙手一投足が、“人柄”として高評価されるスキルや。偏差値じゃ俺には勝てん」


武骨の足元に、評価メーターが浮かび上がる。なぜか全項目が“◎”だ。意味がわからん。


だが、こちらも負けてはいられない。


(偏差値差分……42 - 37 = 5)


【Complex Boost:発動】


【ステータス上昇:+50%】


さっきよりブースト量は低いが、それでも動きは滑らかだ。


「行くぞ、就活スーツ野郎!」


「よし、では“逆質問タイム”だッ!」


謎の掛け声とともに、武骨のスーツがパァンと光る。

背後に“面接官の幻影”が5人現れ、俺を囲もうとする。


だが――


「俺、逆質問とかしないタイプなんだよッ!」


俺は“学内コンビニで無料配布されてた”クリアファイルを手に取り、幻影を一掃した。


「ぐああっ!エントリーシートの波動が……!」


武骨がたじろいだ瞬間、俺は一気に距離を詰めた。


「お前……“人柄”で勝てるって言ってたな……なら、俺の“人間臭さ”で返す!」


クリアファイルを左に。教科書を右に。そして口撃(こうげき)をひとつ。


「俺はずっと就活が怖かったんだよ!“自己PR”って言われても、出せるもんがない!部活もしてねぇ!ボランティアもしてねぇ!エピソードゼロだよ!!」


ズドンッ!


拳に込めたFラン魂が、武骨の胸に直撃した。


「ぐはあっ……お前、そんな……“履歴書の空白”を武器に……!」


バシュウゥッ!


武骨のスーツが破れ、幻影の面接官たちが消えていく。評価メーターも“◎”から“?”に変わっていった。


「俺の……内定……」


次の瞬間、彼の体は青白い光と共に弾け――


《武骨 仁、失格》


《偏差値:42 → 脱落》


《敗北理由:履歴書に心を殴られたため》


というホログラムが空に浮かんだ。


俺は、勝った。間違いなく、勝ったのだ。クリアファイルと“自分語り”で。


「くっ……あんたの面接力、たしかにすげぇよ。でも――」


「自分を盛れないやつだって、生き残りてぇんだよ!」


心の中でそう叫びながら、俺は大きく息を吐いた。


「見たかよ、今の!?」「Fランが連勝中!?」「これ、神回だろ!」


周囲の観客(全員大学生)は、どよめきと拍手で俺を称えていた。


「次の挑戦者、出てこいやあああああ!」


俺の絶叫が、再び学歴領域に響き渡る。


そして次に現れたのは――


「男子相手に連勝? 調子に乗ってるみたいね、雑草くん」


女子大代表、毒舌女王の登場だった。

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