第3話「理系の獣使い、数式召喚!」
「フ……面白い。“偏差値”とは数字ではなく――式だよ」
現れたのは、異常なまでに白衣を着こなした男。目元にはゴーグル、胸元には電卓とコンパスをぶら下げ、指先にはチョークの粉がこびりついていた。
名札にはこうある。
猿渡 俊(さるわたり・しゅん)
偏差値:65
大学:北陸理工大学(地方旧帝大・理系)
「学歴バトルにおいて、最も優れているのは“思考演算速度”……その意味が、君にもいずれ分かる」
「うわぁ……ガチ理系かぁ……そろそろ文系とか来てくんないかな……」
【Complex Boost:発動】
【ステータス上昇:+280%】
それでも俺は戦う。差は28。ブーストはフルにかかってる。でも――
「数学とは、世界の真理そのもの。論理の神が我々に与えた唯一の絶対解だ」
猿渡は空中にチョークで数式を描いた。
Σ( n = 1 → ∞ ) [ 1 / n² ] = π² / 6
次の瞬間、式が光り、空中から謎の生物が出現する。獣だ。ベクトル記号のたてがみ、分数の牙、尻尾は積分記号。
【スキル発動:《数式召喚(フォーミュラ・ビースト)》】
「これは“収束獣”――無限級数を具現化した安定演算体。君のような非論理的存在では、かすりもしない」
「ていうか……こっちから見たら、そいつ“記号のかたまり”なんだけど……」
「では答えてみろ。“sin²θ+cos²θ”は何になる?」
「……え?」
「中学生でも解ける。1に決まっている」
「えっと……それって、ピザっぽいですよね?」
「……は?」
「なんか“丸い感じ”するし、sinとかcosとか……イタリア語っぽくないですか? ピザだろ、これ」
「何を言っている……!」
獣が一瞬、よろけたように見えた。
(いける……コイツ、“論理外”に弱い!)
「あとさ、“√-1”って“マイナスの気持ち”ですよね。落ち込んでる感じ。俺、いつも√-1です」
「それは虚数だッ! 数学における“i”だぞ!?」
「そう、それそれ。“i”。アイドルの“i”ですよね。やっぱ可愛いは正義」
「話が……飛躍しすぎているッ……!」
【演算エラー:論理飛躍のため構造崩壊中】
「な、なぜだ……なぜ、こんな非学術的珍回答が俺の数式を揺るがす……!」
獣の体が、ベクトルからイタリック体になり、徐々に“?”の記号へと崩壊していく。
「言っとくけど俺、“積分”って聞いたら“納豆巻き”思い浮かべるからな?」
「やめろォォォ!数式を感性で揺さぶるなァァァ!」
ズガァァァン!!
獣が爆散。猿渡が後ずさり、演算式が崩壊していく。
「わ、私の理論体系が……崩れていく……!」
「な? FランにはFランなりの勝ち方があるんだよ」
最後に俺は、さっき拾った“履修要項(4年前の)”を猿渡の足元に滑らせた。
「履修計画の重要性、甘く見たな……ッ!」
バシュウゥッ!
《猿渡 俊、失格》
《偏差値:65 → 脱落》
《敗北理由:数式への珍回答が想定外すぎて演算不能に陥ったため》
……勝った。
今回は殴ってない。投げてもいない。俺の“珍回答”だけで勝った。
もしかして、これが“Fランの戦い方”なのかもしれない。
「Fラン、数式を論破!?」「いや論破っていうか意味不明だったろ……」「逆に天才かも……」
周囲の大学生たちがざわめく中、俺は静かに一言、つぶやいた。
「俺、理数科目全部赤点なんだけどな……」
だが次の瞬間――さらに華やかな気配が空間を支配する。
「ふぅん、理屈で詰められたら、珍回答で逃げるスタイル? 面白いじゃない」
現れたのは、完璧な巻き髪とハイヒール、知性とプライドを纏った“ザ・MARCH”の女王だった。
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