純情ヤンキー♀が色々と頑張る話。

zmm

第1話「純情ヤンキー、恋に落ちる」

 中学三年生、藍田緋楼あいだひいろは不良である。ヤンキーの典型文テンプレのようなロングヘアーの金髪、耳には女子中学生とは思えないほどイカついピアス。一見すると男のように見える高い身長にすらりと長い手足。

 彼女は地元で最強のヤンキーとして名を馳せていた。その強さは大男でさえも凌駕する程で彼女はここ一帯の不良達から恐れられていた。の名が付くほどに。

 まぁソレも今は鳴りを潜めているが。何故なら今彼女はショッピングモールを訪れているからだ。素性を隠すための黒いキャップ。傷がある首元が隠れるハイネックのトップスに黒いスラックス。スレンダーな彼女によく似合う服装だが、こんな格好をしているのにはしっかりとした理由があった。


 それは一般市民を怖がらせないためだ。

 緋楼はモデル体型故に、その場に居るだけでも存在感がある。ましてや地域に名を馳せる不良。そんな者が平和なショッピングモール内を闊歩しているのは恐怖の対象となるだろう。幼い妹を持つ緋楼にとって幼児にトラウマを与えるのはなんとかして避けたかった。


(父さんから頼まれた本も買ったし…あとは母さんの頼まれ事だけ…これでやっと帰れ…ん?なんか騒がしいな)


 買い物に夢中だった緋楼はふと、周囲が騒がしいことに気がついた。気になった緋楼は音のする方向へ視線を動かした。


「ね〜おじょーちゃんさぁ〜俺らと遊ぼうよ〜」

「すみませんっ急いでいるので…」

「それカレシの荷物?にしては女物すぎるか〜wどー見てもナンパ待ちしてんじゃんw」

「あっち行って俺らと遊ぼうぜ〜w楽しいこと、俺たちが教えてやるよw」

(ナンパか…)


 緋楼の視線の先では黒髪の少女が如何にもチャラそうな男共に手を掴まれていた。緋楼でも見覚えがあるようなブランドのショッパーを持っていることから金持ちの娘だというのは容易に想像がついた。

 緋楼はこんなナリをしている分、そういった現場には幾度も出くわしてきた。だが、それまでナンパされているのを見たのは全て素行の悪そうなギャルばかりで服装も男を誘うような露出度の高いものだった。しかしあの少女は一切の肌色を見せず、表情もあのギャルの女達とは違って本当に困惑しているようだった。また、青ざめた顔からは恐怖の感情も読み取れた。


(このまま無視するのか…ウチは)


 ふと緋楼の胸の内に一つの疑念が生まれた。このまま彼女を見過ごしてもいいのか?如何にも善人そうなあの少女にトラウマを植え付けてもいいのか?

 曲がったことが嫌いな緋楼の脳が出した答えはNOだった。


「その手離せよ。嫌がってんだろ」

「あ”?んだテメェ?」


 少女の手を掴んでいる男の腕に手を掛ける。男は顔を顰めて怒りの感情を露わにした。

 男は緋楼の手を振り払い、そして睨み付けた。


「テメェどこのどいつだぁ?誰に向かって口利いてんだゴラァ!!」

「お前こそ、誰にそんな口聞いてんだよ?あ”?言ってみろよ!」


 緋楼が深く被っていたキャップをくいっとあげ、片手で軽く前髪を掻き上げた瞬間、男達は凍りついた。

 何故すぐに正体が分かったのか。ソレは緋楼の顔には左の眉にナイフで斬られた傷痕があるからだ。いつもは若干髪で隠れて見えないようにしているが前髪を掻き上げた緋楼の額には遮るものなど何も無かった。


「なっなんで藍田緋楼がこんなところに…!?」

「るせぇ。ウチだって買いもんくらい来るに決まってんだろ。ウチが楽しく買いもんしてるときにテメェは嫌がってる人の手ェ引っ掴んでナンパだぁ?笑わせんじゃねぇ!!さっさと散れ!!」

「ヒィィッ!!」


 緋楼は男を力いっぱい睨み付ける。男は身を震え上がらせて尻もちをついた。


「そんで…お前らのカシラはテメェだなぁ?その『楽しいこと』ってのをウチにも教えてくれよ、なぁ?」

「ヒィッ!!いや、藍田さんともあろう方には…」

「あぁ?ウチには足りねぇってかぁ?しっかり外で一から百までキッチリ『お話』聞いてやろうじゃあねぇか?あ”?」


 緋楼が頭の男の腕を引っ張ってモールを後にしようとしたとき、細い腕に引き留められた。緋楼が吃驚して力の方向を見ると、先刻までナンパされていた少女が顔を震えさせていた。


「ぼっ暴力は駄目ですっ!わ、私怪我してませんし…その大丈夫ですからっ!その人たちに乱暴なことはしないであげてください!」


 彼女の必死の懇願に緋楼の心は揺らいだ。いや、高鳴ったとでも言うべきか。現に緋楼は心臓が跳ね上がるほどドキドキしていた。何故なら緋楼は同性に驚くほど耐性がないからである。

 緋楼は幼い頃から男とばかりつるんでいた。いや、それは少々間違いであるつるめなかったのだ。仲良くしようとしても切れ長の目と男勝りな性格のせいで彼女は女の子に怖がられるばかりだった。仲良くなりたいのになれない…そんな幼少期を過ごし、色々拗らせた緋楼はいつしか女の子を恋愛対象と意識するまでになった。

 とどのつまり緋楼は拗らせ童貞なのである。男も女も経験していそうな彼女は実際は女の子と話すだけでもドキドキしてしまう…所謂、恋愛だけはてんでダメな残念イケメンだったのだ。


(どうしようどうしようどうしよう…!!腕ほっそ!顔ちっちゃ!しかもめっちゃいい匂いするし…てか顔かわいすぎだろ!)


 少女の容姿は遠目からは分からなかったが、緋楼のタイプど真ん中ドストライクだった。目で分かるほどさらさらな黒髪に優しそうな大きな藍色の瞳、守りたくなるような小柄な体躯。どれを取っても緋楼の好みであった。

 悪は絶対に鉄拳制裁する…そんな信念を持っている緋楼でさえもこの少女の潤んだ瞳には抗えなかった。ましてここで暴力行為など起こしてしまったら警察沙汰不可避だ。

 頭が冷えた緋楼はちょっと考えて、少女の方を向き直った。


「…しゃ、しゃあねぇ。このお嬢ちゃんに免じて見逃してやるよ。ほら、さっさと行け」

「「「すっすみませんでしたァ!!!」」」


 男達が走って逃げていくのを見て気持ちを落ち着かせながら緋楼は頭の中を整理する。男達が去っていったことで少女と緋楼の間に何も遮るものは無くなった。つまり緋楼が夢にまでも見た、『女の子と二人きり』である。


(何話しゃあいいんだよ…!!ウチは去ったほうがいいのか?それとも何か声かけた方がいいのか?でもウチ完全に怖がらせちまってるよな…!?)


 ぐるぐると頭のフル回転させるが答えは見つからない。緋楼が施行を巡らせているうちに、少女の方が先に口を開いた。


「そのっ!さっ先ほどはありがとうございました!」


 少女が深々と頭を下げる。ふわっ、と彼女の付けているフローラルな香水の香りが二人の間に漂った。


「ああ、いや、その、う、ウチは自分のできることやっただけっつーか、なんつーか」

(上手く話せねぇ…!どうやればいいんだよ!!)


 さっきの男達と話していた緋楼の饒舌はどこに言ったのだろうかと思うほど、緋楼は言葉に行き詰まる。何しろかつてない程の出来事なのだ。あたふたしてしまうのは当然のことだった。


「こっこれ、お礼です!受け取ってください!」


 また、緋楼の言葉が出るよりも先に少女の手が動いた。少女は見るだけで高価と分かるバックを開け、財布から万札を数枚取り出した。


「いやいやっ!こんなの受け取れねぇ!そもそもウチがやったの、大したことじゃねぇし…それで旨いもんでも食って帰んな。親御さんも心配してるだろうしよ」


 あまりにも予想外の出来事に緋楼はまた動揺したが、たかが人助け程度で最高金額の紙幣をいくつも貰うことなぞ出来ない…そう、緋楼の良心が判断した。


「そっそうですか…」

(や、やばいッ!選択肢ミスったか…!?)


 緋楼が受け取りを拒んだ瞬間、少女は目でわかるほどしょぼん…と落ち込んでしまう。それにまた、緋楼の心は煩いくらいにざわついた。緋楼にとって発する言葉全てが取り返しのつかないものであった。例えるならば、某有名恋愛ゲームとき◯モで選択やら、何やらを少々ミスしまってヒロイン達の爆弾ゲージが溜まっていき、最終的に爆発して多方面から非難を受けてしまう…そういったいわばデスゲームである。百戦錬磨の最強ヤンキーであっても経験したことない危機的状況であった。

 だが、嫌われてしまうのではないかという緋楼の心配は杞憂に終わった。また少女が顔を上げたのである。


「そっ、それなら代わりにお名前を教えて下さい!」


 先ほどよりもぱぁっと色づいた少女の顔。緋楼は彼女の調子の立て直しように若干驚きながらも口を開いた。


「なっ名前!?え、えっと…う、ウチは藍田緋楼。そっそれじゃウチも用事あるしこれで失礼する!気ぃつけて帰ろよ!!」

(もう耐えらんねぇ!この子には悪りぃけど…これ以上はウチの身が持たん!)


 女の子との長時間の接触で緋楼の身体は既にギリギリの状態にあった。そしてそれ以上近くにいると限界が来て鼻血を出して倒れてしまうことも同時に悟っていた。

 出会ったばかりの…それも自分のタイプど真ん中の女の子に無様な姿は晒せられん!という思いが緋楼の火照った体を動かした。


「あっ!まっ、待ってくださいっ!私、まだあなたとお話が─」


 猪も圧倒するであろう速度で走る緋楼の耳に少女の声は届かなかった。









「あいだ、ひいろさん…ですか…」


 すっかり日が落ち、時計の針が十を回った頃。

 少女は一等地にある自宅の広々としたベッドの上で昼間の出来事と、恩人の名前を反芻していた。


「本当に素敵なお方でした…///」


 少女は顔を赤らめながら自らを守ってくれた人の顔を思い出す。すらりと長い手足に綺麗な瞳。三人の男から自分を華麗に守ってくれたあの人。

 あのとき見上げた表情は少女にとってこの世の誰よりも、テレビで見るイケメン俳優よりも遥かにかっこよく映った。

 つまり…少女は緋楼に惚れ込んでいた。そう…一目惚れである。少女にとって緋楼との出会いはまさに『衝撃』そのものだった。なぜなら緋楼はこれまで少女が出会ったきた人々とは全く異なるからだ。少女にはただニコニコしているだけの男達に何の魅力も感じていなかった。

 というのも少女には昔から結婚を決められている婚約者がいた。相手は少女の父親の仕事仲間の子息である。世間一般的には誰もが結婚したいと感じるような甘い顔、そして実家は金持ち。つまり人生の勝ち組であった。

 しかし、少女はこれっぽちも魅力を感じていなかった。のつまらない男に興味など微塵もなかったのである。だが、一つの大きな問題があった。男の方は少女を好いていたのである。そして不運にも、少女の誰にでも優しい、人当たりのいい性格のせいで少女の方も男を好いていると両家の大人達からも勘違いされてしまったのだ。また、ここで少女が男を拒んでしまえば、家業の方にも多大な影響が出ることも聡明な少女にとっては理解していた。つまり、万事休すである。

 しかし、そんな危機的状況に登場したのが我らが主人公、藍田緋楼である。緋楼は少女がこれまで出会ってきた男とは違い、彼女の態度は一言で表せば『豪快』そのものだった。少女が恋人に求めていたのは他でもない『何かを顧みずに行動できる豪胆さ』であったのだ。

 また、少女は一つの希望を抱えていた。そう、豪胆な緋楼であれば自分をここから連れ出してくれるかもしれない…ということだ。それが叶えば少女の要望も全て叶うのである。一目惚れした初恋の相手と一緒になれるし、婚約者とは破談という形でオサラバできる…これ以上ない、最高の方法であった。

 しかし、事が上手くいくのは全くの別問題である。少女は多くのことを懸念していた。その一つが『また再会できるのか』ということだった。

 今日はたまたまあのショッピングモールに来ていただけで本当はまだ離れているところに住んでいるのかもしれない。ましてや自身も婚約者の男から誘われたデートを無視して暇つぶしにあのショッピングモールを訪れたのだった。絶対に再会できる可能性はかなり低いのは事実であった。

 しかし聡明な少女はあることを思いついた。『』のことである。

 幸い、少女には並の大人と同等か、それ以上の財力を持っていた。全て親の金であるが『資産分与』という名の小遣いで毎月数十万を受け取っていたのであった。法律上は自身の資産である。何も問題などなかった。

 そうと決まればあとは行動を起こすのみである。少女は懐から携帯電話をすっと取り出した。


「もしもし、じいや?少し…頼みたいことがあって…」


 少女は最も信頼する使用人へ電話をかけた。

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