第55話 やり過ぎもよくないよねって


「ルゥ、スウェンと何をしていたの?」


「イチャイチャラブラブちゅっちゅタイム、ちょっと待って嘘ついた謝るからその拳を降ろして」


 またルゥ姉さんがしょうもない嘘をついて母さんにしばかれている。


 しょうもないマウントをとりたいがために親族を煽ってはしばかれるのは運命なのか。


 元々、家庭内で煽りあいが起こっている我が家は異常なのか?それとも愛があるからこそ成り立っているのか。


 僕は、後者であることを願っている。


「敷地内のスタジオまで使っちゃって、今度は何を企んでいるの?」


「えーっとね、合成音声を作ろうかなって」


「ゴウセイ音声?それは声を使うゲームの話?」


「違うよ、人の声を機械で録音して喋らせる手法だよ」


「それは何の意味があるの?普通に喋っていけばいいんじゃないの?」


「解説動画を上げようと思ったんだけど、僕が喋ると大変なことになるでしょ?」


「それは…………そうね。確かにスウェンの生声を載せた動画は危険ね」


 僕がルゥ姉さんとメイドさん達を集めてしていたこと、それは録音である。


 何故ルゥ姉さんの声を録音していたか?僕の声を録音するのではいけなかったのか?


 男性の声を使った動画は質が悪くても伸びやすい傾向にある。素人によってつくられた出来の悪いものですら男がメインというだけで10万以上と再生数は伸びる。


 ただし、代償として身バレして大変なことになる。それはもう大変なことに。


 いくら僕の家が大富豪であっても、セキュリティが強固であっても万が一というのはありうる。


 特に、僕という男が関わっているような事案は侵入、強姦は起こってしまう可能性が高い。


 僕が矢面に立つのは各所・・に悪い。


「人の声を思うままに出せる、けれどどうしても棒読みになるから何言わせてもいい…………そこがいけないんだよね」


「それはどうして…………ああ、そういうこと」


「僕の声で作ったら淫語ばかリ喋らせるでしょ?」


「私もそれは賛成する。スウェンが産まれる前なら多用してばら撒いてた」


 うんうんと最悪な同意をしてくるルゥ姉さんであるが、この懸念が一番正しい。


 僕はやりたくてホラゲーや鬱ゲーの声優として参加している。


 それは物語に寄り添いたいという気持ちを持ってやっているだけであって、慰み者になりたいとかいう訳ではない。


 いくら声質を変えられるからって男の合成音声なんて出そうものなら滅茶苦茶におもちゃにされる。


 まあ精神衛生上は良くないよね。


「理由については分かったわ。でも、何で合成音声にルゥが?」


「おもちゃにされてもまだマシそうかなって」


「えっ」


「流石に冗談だよ。一番平坦で特徴もないから一番加工しやすいと思って」


「それって暗に馬鹿にして…………」


「これで馬鹿にしてる判定なら芸能界で生きていけないよ」


「私、芸能界に生きるつもりは無いけど?」


 冗談を並べまくったが、決して無策という訳でもない。


 合成故に誰が担当しているか分からない者を当てるのが良い。


 それも、守りやすい位置に居る人が一番いい。


「ふぅん、確かに権利を身内で確保するから管理はしやすいわね。その合成音声は外へ販売するつもりなの?」


「ルゥお姉ちゃんさえよければって感じ。無断で売り出すのはいくら家族としてもちょっとどうかと思わない?」


「ウェイルとロウルがやってたら殴ってる」


「まあ、殴るわよね」


「みんな暴力が好きなの?」


 相変わらず武闘派な我が家ですが今日も元気です。


 ひとまず音源は確保したので好き放題言わせてみることにしよう。


 想定した喋りもよし、自作の音声ソフトにバグも無し!


 なんでバグが無いんですか?(技術者的恐怖)


 ちょっとした恐怖が残りながら、僕は動画を作り始めるのであった。











〜●〜●〜●〜●〜










「以上で動画の発表を終わります。どうだった?」


「ちょっと集合」


 あれから1週間、ようやく完成した動画をプレゼン程度に家族の前で見せると突然集まって会議が始まった。


「ルゥ、何か言うことは無い?」


「私は何も教えてない。ロウルじゃないの?」


「馬鹿が、私がやったとして何の得があるんだよ」


わたくしでもありませんわよ。でも、スウェンなら一人でたどり着く可能性はとても高いですわ」


「エゴサの精度は高い方だものね、でもよりによって…………」


「でも結構アレンジを加えてる。本当に本家を使った?」


「くっそ、本当に何も知らないんだな?」


「そろそろ私に疑いが行くことに抗議をしたい」


 何やら4人でこそこそと話しているが、ギリギリ聞こえない範囲で喋ってるから内容が全く分からない。


 『クリスタルロボ・洞窟王国の再生記』のリアルタイムアタックRTAもどき動画だったけど、ネタバレになるからダメだったり?


 出来る限りイベントはスキップできたし、予想外のこともあったけど出来る限りの事はしたつもりだ。


 ダメだったらダメだったで封印する。企画が簡単に通らないなんてことはザラだ。


 むしろつつがなく通ってきたこと自体が奇跡だ。ちょっと調子にのってたかも。


「いえ、悪くはないのだけれど言葉遣い?がちょっと…………」


「どこでこの手法を学んだの?」


「ネットミームから」


「何でよりによってそこから何だよ!?」


「だってウケると思うじゃん」


「ウケますけど!?それを男の子が面白がって作るのはどうなんですの!?」


「そうでもしないと注目が集まりそうになかったもん!」


 RTAは普通の動画にすると非常につまらなくなる。何故ならただやってることを解説するだけ、もしくは延々と作業しているシーンを流すだけなのだから。


 そこを話術やネタを挟むことで視聴者に飽きさせず見続けさせるというのが僕の前世で流行っていた動画の手法だ。


 かのお方は1人でその基礎を立ち上げ、気づけば一大コンテンツとして築き上げてきているんだ。


 なお、内容がちょっと汚いのが欠点であるため空白の歴史扱いにされる模様。少し悪いけど、僕もそれを参考にさせてもらいました。


 なので多少の下ネタ関連の動画を漁って素材にさせてもらった。


 まあ、確かに男が希少な世界でこれを男が作ったと言われたら考えるところはあるのかもしれない。


 逆を言われたら僕も流石に考え込んでしまいそうだもの。


「どうしよう、これ本当に流すべき…………?」


「力作であることは間違いないんだけど、これをうちで流すの…………?」


「流石にツッコまれやしねえか?いや、誤魔化しは聞くし、ユーモアも…………」


「株主総会で滅茶苦茶にツッコまれますわよっ!」


 家族全員、メイドさんまで『どうするんだこれ』という雰囲気を出しちゃってるよ。

 

 自分で作っておいて何だけど、こうしきとして 流すのはちょっと怪しい部分はある。


 流石に悪乗りしすぎたか?多少の修正も現段階で効くからいくらでも受け付けるけど。


 ずっと話し合っている皆をよそに、僕は用意されたジュースをストローで吸うのであった。


 20分後、普通に修正案をだされた。是非も無し…………

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あべこべ世界でゲームを作ろう! 蓮太郎 @hastar0

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