基地攻撃

パールハーバー・ヒッカム統合基地のパールハーバー海軍基地エリアには、太平洋艦隊の司令部が置かれている。

もう一つのヒッカム空軍基地エリアには、太平洋空軍司令部が置かれている。

要するに、パールハーバー・ヒッカム統合基地は、太平洋最大の米軍基地である。


日本がロシアへの対応を行っていた間、秋津達攻撃隊はこの基地を不定期に、平均二日に一回の割で攻撃していた。

基地攻撃とは言え、日本防衛軍の実験部隊には、本格的な爆撃機はない。

元から市街地への広域爆撃の必要性が無いので、爆撃機の必要性は無かった。

秋津達が行っているのは、赤燕を使っての地上攻撃である。


ロシアとの戦いの結果が出るまで、米軍には動いてもらいたくなかった。

それゆえの攻撃、要するに時間稼ぎであった。

赤燕には、前翼カナードがあるため、斜め下を向きながらの水平飛行が可能だった。

地上設備へ、内蔵レールガンでの銃撃は容易に行えた。


しかし、総合戦略軍の方針に『敵、味方双方の犠牲を極力少なくする』というものがあった。

このため、地上設備への攻撃の前に、その上をフライパスしてからの攻撃であった。

時々上がってくる戦闘機との空中戦でも、極力コクピットを避けての銃撃に心がけていた。

米軍の兵士たちも分かっているようで、対空防御はおざなりな感じであった。


吉本達がクレムリンを攻撃している間、秋津少佐を隊長とする、全神経接続FNJの新赤燕で、この統合基地を攻撃していた。

米軍の対空防御は適当で、迎撃戦闘機もたまにしか上がってこないので、新赤燕のパイロットの訓練にはちょうど良かった。


今回、吉本はこの攻撃隊に同行して、彼らの飛行を観察していた。

彼らの飛行技術を見た瞬間、吉本は口を開けたまま、何も言えなかった。

ひと呼吸して出てきたのは、一言だけ。

「バカげている」


失速を起こして飛ぶあのゼロ戦の代名詞であった『木の葉落とし』は無論のこと、ストールターンやテールスライドなど々、敵軍の前で曲芸飛行を行っている状態だった。

吉本は、そのことを秋津隊長に尋ねてみた。


以前の会議室でのミーティングは、この攻撃隊の実態を理解してもらうため、物理的に直接会ったが、その後の会議は、メタバース仮想空間上で行っていた。

吉本の質問も、このメタバース上だった。


「作戦行動中に、あんな曲芸飛行を許しているのですか?」

メタバースの中では昔の姿のままの秋津は、笑いながら答えた。

「お前のアクロバットは、上層部に許可申請を出して練習したのか?」

「しかし、敵軍の前ですよ」

「我々、攻撃隊の現時点での目的は、米国に戦闘行為をさせないことだ。相手が喜んで見物してくれるなら、いくらでもアクロバットを行うよ」


「しかし……」

「お前が仮に米軍で、米軍機で俺たちと戦って勝つ自信はあるか?」

吉本は、この会話を隊員全員が聞いていることを認識しながら、答えた。


「一対一なら勝てません」

「何機が組めば勝てる?」

「三、四機以上でしょね。それでも犠牲がでる可能性があります」

「だろうな。十分抑止効果があるわけだ」

「しかし、手の内をさらけ出しているのは、危険では?」

「無論、奥の手は見せてないよ」


聞いていた隊員から声がした。

「その奥の手をやってみたい。その時の相手の顔をみてみたい」

この発言の後、隊員たちは騒ぎたてた。

「飛行中に相手の表情は見れないが……」

「捕虜にした後、あの名前を聞かせて……」

「名前を聞いても、日本文化だから……」

「あれを文化というのか……」

「ベルゼブブの応援を貰おう」

「ベルゼブブより、俺達の姿を見せた方が、効果があるのでは」

『奥の手』辺りから話が、それていったので、吉本は一抹の不安を感じながらもメタバースから抜け出た。

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