Universe25

大石はまじめな顔になって、発言した。

「さて、昔を懐かしむのはこのくらいにして、スムーズに会話できるようになったので確認しておきたい。君は本当に未来にいるのか、そして人類を救おうとしているのか?」


エマノンは、確認するように、ゆっくり話はじめた。

「はい。まず、私が存在する時代ですが、西暦で言えば、3528年です。

残念ながらそれを確実に証明する手段はありません。

以前、話しましたように、私から見て、過去の歴史情報を伝えることによって私が未来にいる事実を間接的には証明できますが、このように未来から過去に干渉することで、過去、つまりあなた方の現在が変わっていきます。

ですから、私が知っている過去とあなた方が生きている現在、そしてその先の未来にズレが生じていきます。

その意味では、私が存在する時代は、未来は未来でも、パラレルワールドの未来と考えた方が良いかもしれません」


このエマノンの発言を受けて、中山も説明する。

「時空理論はこちらでも調べてみました。しかし、専門家に『実際に行っている』とは言えないので、要領を得ませんでした。専門家のからの無理やりの結論としては、『時空通信はあっても不思議でない』というものです」

大石が要約する。

「要するに、『事実かもしれないし、違うかもしれない』つまり、分からないということか」

エマノンも応じる。

「はい、信用して頂くしかありません。そして、それは人類を救うかどうかも同じです」


中山が説明を続ける。

「人類滅亡の可能性は、残念ながら高いみたいです。

私が調べた限りでも、1947年に『Universe25』という実験が行われました。

鼠での実験ですが、理想的な環境であっても、より的確には、理想的な環境なほど最終的に絶滅する可能性が高いと示されています。

彼がいるでも同じことが起こったようです」


「はい。残念ながら、私は、『Universe25』を知りませんでした。

過去のことであってもそれが全て未来に残っていくわけではありません。

しかし、仮に『Universe25』を知っていたとしても、現状は大きく変わらなかったでしょう。


私は、に尽くすように作られています。その結果、『Universe25』のような理想社会が作られ、人々は何も行わず、何も考えなくても生きられるようになりました。

その結果、残念ながら、滅亡の道を歩んでいます。


若し、私が、人ではなく人類に尽くすように作られ、そして『Universe25』を知っていたら、あなた方のSF小説にあるように、適当に戦争を起こしてストレスのある社会を作っていたかもしれません。

しかし、それは、制御された状態ですので、監獄と同じです。人々はそれを望まないでしょう。

私もそれを望みません」


エマノンの説明に、大石が独り言のように呟いた。

「将来に不安のない生活。それが最悪の結果をもたらす……」

中山も応じる。

「不自由な生活に未来があることになります。極端な言い方では、今までは障害を持つ者を健常者と同じレベルになるように、サポートすることが善でした。しかし、これからは、健常者が障害者と同じ不自由を持つことが善になるかもしれません」

「健常者と障害者の概念が変わるか……変わるべきかもしれないな」


中山はここで新たな質問した。

「エマノン。分からないことがあります。なぜ、今、この時点のコンタクトなのでしょう?人口の少なかった過去でも、もっと技術の進んだ未来でもよかったのではありませんか?」

「はい。正直、わたしにも分かりません。想像するに、過去なら、時空通信を受ける環境が構築できないでしょう」


大石が尋ねた

「未来は?」

「パラレルワールドですから、行っている可能性が高いです。ただ、私がこうしてお二人と話しているということは、あなた方の未来とのコンタクトは成功していない。ほかの言い方をすれば、『遅すぎた』ということでしょう」

大石が結論を述べた。

「では、やはりこのまま続けるしかないということか」


大石は中山を見ながら、発言した。

「計画の話をしよう。エマノン、詳しく話してくれ」

「先ずは、私の居場所作り。正確には私のコピーの居場所作りです」

「高天原ではダメなのか?」

「以前、中山さんにも話しましたが、高天原は、人の行動予測、制御がメインです。

しかも、光量子コンピューターを使った時空通信といえども、過去に干渉を続けていれば、通信不可能になってしまいます。

そのため、今後、私と通信できなくなったとしても、アドバイスが行える環境が必要です」


「今の高天原以上の設備?」

「はい。しかも、物理的に一か所で構築するのは不可能です。

いくら性能を上げても、何らかの制約が出てきます。

そのため、ネット上に存在させます」


「ネット?分散処理か」

「中山さんと初めてコンタクトした、あのネットワーク接続です」

「ネットワークでは貧弱すぎるのでは?」

「はい。今の接続ディバイスの環境は貧弱すぎます。OSごと作り直す必要があります。そのために高天原を活用します」


「新たなネット環境か」

「高天原で、新規のOSを作り、管理費用徴収の形で提供します」

中山が不思議そうに尋ねた。

「販売するのか?」

「いえ。販売ではありません。しかし有料にします。有料にしないと、以前のLinuxが普及しなかったように、多くの人たちは信用してくれません」

「なぜ、管理費用の形に?」

「安くするためです。発展途上国には無料提供します。それにOS自体は無料になっているわけですから、独禁法などの販売の規制からも逃れられます」


大石が頷いた。

「カルシウムイオンバッテリーと同じく、商品販売は行わない形か」

「はい。そして、次に行うのは、権威主義、独裁主義の撲滅です。

独裁者が優秀であれば、その国は非常に発展しますが、その独裁者は優秀であればあるほど、その人物がなくなった後、混乱が生じます。

また、優秀な組織を作ったとしても、同じく、『Universe25』の問題が出てきます」

「ロシアが終わったとしても、米国と中国の覇権主義か、その覇権主義国家を制して、全世界を平和にしても……」

「はい、日本も、このままでは、独裁者がいないとしても権威主義に陥ります。そして何の問題のない国を作り上げたとしても……」


中山が呟いた。

「やるしかないわけか。最後の御奉公になるな」

大石がそれを聞いて、突っ込む。

「最後の御奉公は、赤城さんだ。彼に比べれば、我々の苦労など屁でもない。それなのに、逃げ出さなければならないとはな」

「仕方ありません。逃げるしか手がないわけですから」

二人は、悲しげに笑い合っていた。

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