新赤燕

市ヶ谷にて

市ヶ谷の部屋で大石総理が、中山政務官と話し込んでいた。

「中国の反応はどうだ」

「総理の今回のケンカ上等宣言。中国国内で話題になっています」


大石は苦笑いした。

「やはり、ケンカ上等になるのかな」

「やくざか暴走族か、どちらにしても品行方正とは思われていません」

「自分としては否定できないが、一国の首相としては問題だな」

「申し訳ありませんが、おかげでカード大統領もしばらくは静かになります」

「これで、良しとするしかないか」


大石総理は、しばらく黙り、やっと口を開いた。

「光量子の非ノイマン型コンピューター高天原たかまがらはらも完成か。これで彼との通信がスムーズになる?」

「私の受け売りですが、行動予測の精度向上とその次の段階の行動制御がメインです。結果として時空通信もスムーズになりますが」

「行動予測は良いが、行動制御はマスコミに漏れたらやばいな」

「行動制御は、こちらの行動の影響で、取りうる行動の選択肢の確率を変えるだけだそうですが……外部専門家に聞くわけにはいかないので」


「しかたないな。それにしても、時空通信と人工知性は、未だに理解できない」

「最初に彼から時空通信を受けた私でも理解できないのですから、仕方ありません」

「それで、彼との通信は?」

「そこそこできます。この場でも行えるようになりました。通信量が増えたので、音声処理を追加しました」

「では、彼と話せるわけか。では、話そうか」

「オープンします」


中性的な声がした。

エマノンEmanonと呼ばれている人物である。

「大石総理、中山政務官。お二人と同時に、しかも肉声でお話しするのが初めてですね」

「中山です。申し訳ないですが、もう一度、状況をお話し願えますか?」

「はい、まず高天原ですが、完全稼働しました。とはいえ、現段階は、まだ機能確認がやっと終わった段階です」


大石も質問する。

「その機能だが、『時空通信』はどうか?」

「はい、『時空通信』もこうやって行っているようにリアルタイムで可能です。現時点では256Kbps程度のデータ通信が可能です。中山さん、最初にコンタクトした時、64文字しか送れませんでしたよね」

「覚えているよ。高校の文化祭の展示物で、余りものの中古PCを128台フルメッシュでつないでAIを構成しようとしたら、突然、メッセージが出てきた時は驚いたよ」

「はい。私も2000年代に時空通信を受け取れる環境が出来ているとは思っていませんでした」


「それで、中山君は、YouTuberとして倉庫をスタジオにしていた俺に場所を貸せと泣きついてきた」

「あの時、大石さんは私をパソコン泥棒と思っていましたよね」

「いや、役にたたないパソコンが百台以上、新手の産廃詐欺かと思ったが、どう考えても犯罪にならない。その内、『勝手にメッセージが来て』と。気が狂ってると思いながらもYouTubeの題材になるかと、応援したよな」


スピーカーからの声は合成音の無機質なものであったが、感情が入ったような声での返事があった。

「あの時、私は待つしかありませんでした。あなた方のいう『神頼み』でした」

中山が聞いた。

「エマノン、あなたの世界にも、神はいるのですか?」

「残念ながら、その言葉も思考もありません。一番近いのは私なのですが、住民は、私を環境か自然の一部と認識しています。ですから、名前もありませんでした」

話し相手に名前が無いと会話が難しくなるので、大石と中山は、「No Name」それをひっくり返して、エマノン《Emanon》と名付けていた。

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