拳ラブ(こぶらぶ)

腹巻チキン

第1話 あの日 あの時 あの場所で

その部屋は結局、一日中カーテンが開かなかった。

足の踏み場もないとまではいかないものの、衣服や紙類がやや散らばった怠惰な空間。


「……暇だ」


そこに几未禄おしまづき みろくはベッドで仰向けになって、今日だけで何十回になろうか、またその言葉をつぶやいた。

大学の課題はとりあえず終わらせたが、予習をやろうとは思えない。

マンガもアニメも、興味あるものはあるが見始める元気がない。

ゲームも同じ、やる気が起きない。


一人暮らしの大学生活は、想像よりずっと怠惰だった。

面倒がってサークルに入らなかったのが運の尽き、休日呼びつけて遊ぶほどの友人も多くない。

全て新品で買った教材が部屋の隅に重なっているのを見て、情けなくて、そんな自分にまたため息が出る。


「……もう23時か。飯どうしよっかな。作るのめんどくさいし」


スマホの時計を見て唸る。

昼食を食べてからゲームか動画視聴しかしておらず、あまりお腹は空いていない。

しかし最低限、食事と睡眠の規則性だけは守りたい。

ぐうたらと過ごすくせ、越えては行けない一線をわきまえているのがまだ救いだろうか。


「コンビニでなんか買ってくるか」


そう言ってベッドから体を起こした時だった。


「くそぉぉぉぉおッ!!」


突然、暴言と共に玄関扉が勢いよく開き、何やら全身ボロボロの少女が無遠慮に入ってきた。

毛先が巻かれた長い金髪、黒いセーラー服の上に羽織られた革ジャン、ルーズソックスという出で立ち。

まさに女ヤンキーを体現した姿だが、しかし背が小さい。

気性の荒い小動物のような少女だった。


「ちょ、おい。誰────」


「っせぇ!どけ!」


どうもご立腹らしい。

制止させようとする未禄を跳ね除け、少女はベッドに飛び込んだ。

服だけでなく、肌にもかすり傷がいくつも見て取れる。


「ばッかお前、そんな格好で他人ひとのベッドに寝ないでくれよ」


「やかましいんだよ!てか、さっきから誰なんだよテメェは!なんでアタシの家にいんだよ!」


「いや、ここは俺の部屋だっての。お前のベッドにはがあんのか?」


「…………っ!」


ベッドに寝かされているアニメキャラの抱き枕を見て、少女が声にならない声を上げる。

すぐさま抱き枕を掴んで未禄に投げて寄こした。


「……そうだった。アタシ、もうここ家じゃないんだった」


「……?よく分かんねぇけど、とにかく出てってくれよ」


「……っせぇな。腹減ってんのに、最後の力振り絞ってここ帰ったんだよ。もう動けねェ。警察でもなんでも、呼びたきゃ勝手に呼べ」


そう言ってベッドに突っ伏して動かない少女の腹から、不意に音が鳴った。

さすがに恥ずかしかったのか、本当に疲れ果てたか、それっきり黙ってしまう。

そんな沈黙の空間が一分ほど続いたが、結局、その静寂を破ったのは未禄のため息だった。



********************



「もうちょっと落ち着いて食えよ……」


そんな未禄の言葉に目もくれず、少女はガツガツとチェーン店で牛丼を頬張っていた。

ドラゴンボールでしか見たことない勢いだ。

髪は後ろに括っているため無事だが、ご飯粒や肉汁が口回り、服についてしまっている。

外に連れ出すということでシャワーを浴びさせた上に服も貸してやっていたが、結局汚れてしまったわけだ。


「……」


一気に食べ尽くした少女がプハぁと息を漏らし、表情を変えず未禄の目を見た。


「もう一杯」


「えぇ……」


嫌そうな顔をしながらも、未禄は注文用の端末を少女に渡す。


「さっきまで暴言吐きまくってたくせに、ずいぶんと大人しくなったな」


「まぁ……悪かったな。ケンカに負けて機嫌が悪かっただけだ」


「その傷はケンカが原因か。なんだってまたそんなこと」


シャワーでケガは治るはずもなく、顔も含め至るところに絆創膏が貼られている。

しかも打撲痕に関しては未禄宅のメディキットでは対応できず、そのままになっている。

これは取っ組み合いというレベルではないだろう。


「別に。スポーツやりたい奴がいたり、勉強やりたい人も奴がいるみてぇに、アタシはケンカがやりてぇの。んで、誰よりも強くなりたい。それだけ」


「それだけ、って……。格闘技とかじゃなく、ガチ喧嘩ってことだろ?────ッ!」


言い終わらないうちに、未禄の目の前に拳が飛んできた。

瞬きする間に、とは正にこの事。

鼻先スレスレに突き出された一撃に、未禄は言葉が出なかった。


「────性別で向き不向きがあるのは否定しねぇ。けど、それはアタシが夢を諦める理由には足りねぇよ」


「……すまん、別にそういう意味で言ったんじゃ……って、違うな。そういう意味で言ってたわ、悪い。勝手に心配しちゃってさ」


「悪気ねぇのは分かってる。……女なのも、背が低いのも分かってる。分かってるけど、改めて他人ひとに言われたくねぇ」


そう言って少女はコップの氷をバリボリと食い、注文用端末をいじり始める。

食うも飲むも豪快だ。


────俺の肩ほどの背丈の女の子が、「ケンカで誰よりも強く」なんて無謀すぎるだろ。ハッキリ言って、そこらの小学生がプロゲーマー目指すって方がまだ可能性がある。……けど、こいつは無謀なのを分かって、それでもまだ夢を見てて、多分行動してる。チャレンジしてる。大それた夢なんて軽く諦めて現実に逃げているような、俺含め大多数の人間よりよほど────


未禄は心の中で自分と比べ、端末に釘付けの少女を見つめた。

もっとも、彼女はポーカーフェイスなのか集中しているのか、意に介さない。

と、そんな時だった。


「ッしゃあ〜ガラ空きィ!」


「うーッす!」


「ホントここ人いないっすねw!」


何やら派手な格好をした男が三人、騒ぎながら店に入ってきた。

手にはコンビニのビニール袋。

どうも酒とつまみが入っているらしい。


「うわ、スゲェのが来たな。もしアレなら別の店に行っても────」


「ここでいい」


そんな未禄の言葉に少女は目もくれず即答。

しかしそれからしばらくしても、男らの騒ぎは大きくなる一方だった。


「先輩今日はよく飲みますね!」


「そりゃおめえ、ナマイキなサンドバッグやってスカッとしたとこだからな!酒も進むんだなコレが!」


「サンドバッグって、さっきのチビ女っすか?ありゃ変な奴でしたね!カツアゲを止めに来たのかと思えば、ただケンカしたいだけとか言うんすから!しかもそれでクソ弱いしw」


「でも先輩、女は殴らない主義じゃなかったっすか」


「バーカお前、あの気性の荒さとあの胸で《女》はねーよw」


「ぐは!マイナスAカップくらいでしたね!」


「それ凹んでんじゃねえかアホw」


バカ騒ぎにバカ騒ぎ。

飲んだ缶は握り潰して机に転がし、それが落ちても気にしない。

場所だけ借りて一切注文はせず、禁煙マークにお構いなく加熱式をふかす。

絵にかいた様な害悪だった。


「なあ、お前。まさかアイツらが言ってんのって……」


「……」


少女は黙って牛丼を食べ続けていた。

ちょうど四杯目を完食したところ。

お財布的にもうキツいが、未禄は何と言えばいいかわからず、どうにも止められなかった。

そうして五杯目の到着を待っている時。


「ちょおい、いいじゃんかよ〜」


「いや姉ちゃん。先輩の誘いはマジで乗った方がいいからw」


女性店員が絡まれたようで、手を掴まれ、何やら誘われている様子。

今どき深夜に女性一人でワンオペなんてありえないが、他の店員の姿は見当たらない。

嫌がっているのは明らかだが、控えめな性格のようで抵抗も弱々しい。


「あの……えっと、バイトもあります……し……」


「え、何?バイト?いーよいーよ、コイツらが代わりにやってあげるから」


「ええっ先輩マジすか!?」


「俺も一緒に遊ばしてくださいよ!」


「うっせえ!なぁほら、バイトの問題は解決だろ?行こうぜ?」


「いや、そんな……。でも…………」


度が過ぎたこの状況に、さすがの未禄も無関心ではいられない。

しかし、恥ずべきことに席を立つ勇気がない。

相手は酔ったガラの悪い男三人。

関われば、歯の一本や二本は持っていかれてもおかしくない。

体を男らの方に向けて身を乗り出したまま、見つめるだけで動けないでいた。


────情けねぇ……何かしなきゃなのに、何をすればいいか分かんねぇ────


結局、先に体が動いたのは未禄ではなかった。


「……その手、離せ。お前らのせいで牛丼届かねぇんだよ」


「あ?」


「ッ……」


未禄は息を呑む。

不機嫌そうな顔をした少女が、男ら三人のもとまで歩いて行ったのだ。


「……いやお前、さっきのチビ女かよww!やたら威勢のいいこと言いながらボコボコにされて、なんだ今度は男と牛丼食ってんのかよww」


「パシリの男か何かか?見た感じ弱そうだし、何?暴力で従えてんの?」


「こいつじゃあアレにも勝てねぇだろw。股開いてロリコン釣ってんだよw」


「……アレは急に現れて迷惑かけたアタシなんかを、善意一つで助けてくれるお人好しだ。お前らなんかがバカにしてんなよ」


未禄は唖然とした。

まさかそんなふうに感謝してくれているとは思わなかったし、何より、あの気性の荒そうな少女が自分より未禄のためにキレたことに驚いた。


「牛丼の邪魔だ。今すぐゴミ持って外出ろ」


「っはははは!マジで口だけは勇ましいな!」


「バカが!何でてめぇの言うこと聞かなきゃならねーんだ?あぁ?」


男の一人が少女を見下ろして威圧する。

しかしその瞬間、少女の手が動いた。


「てめ────ッぶ」


男の襟元を素早く引き下ろし、落ちてきた顎に膝蹴りを食らわせた。

さらにそのまま身を入れ、鮮やかな背負い投げ。

咄嗟のとこに受け身も取れない男は、床に叩きつけられてあっさりと気を失った。


「こ、この野郎!」


「危ねえ横!」


未禄が叫ぶも、杞憂だった。

少女は男のパンチを手のひらで受け流すと、足を引っ掛けて体勢を崩させ、小さな手で頭を床に叩きつける。

もう一人の男に向き直ったかと思うと、狼狽える男が構える間もなく、腹と顎へ二撃打ち込む。


「……勘違いすんな。あんときは腹減ってて、力でなかっただけだ」


男がドサッと崩れ落ち、店内BGMのみが響く穏やかな空間が戻ってきた。

理解が追いつかないほどの、あっという間の出来事。


「…………」


未禄は呆気にとられていた。

少女の強さはもちろん、ノビた男共を見下ろすその佇まいに言葉を失った。

騒ぐチンピラを見て、「店を変えようか」なんて提案して、助けが必要な人を前にして見ているだけだった情けない自分すらも、同時に殴り飛ばしてくれたような衝撃。

未禄のTシャツを着た小さな背中が、あまりにも大きく見えた。


「…………あ、ありがとう……ございます」


女性店員がか細い声でそう言うと、少女はキッと顔を向けてぶっきらぼうに返答した。


「はやく牛丼持ってきて」


「は、はい!」


女性店員は大慌てで厨房に駆け込む。

席に戻った少女が、呆然としている未禄に言った。


「警察、呼んどいて」


「……へ?」


「いや、アタシ携帯ないし。アレほっとくわけにもいかないし」


「あ、おう……」


結局、女性店員が協力してくれ、警察には「酔った男三人が喧嘩して自滅した」と説明して男三人の始末を任せた。

まさか小さな女の子一人に負けたとは認めたくないだろうし、男らも目を覚ましてからの事情聴取ではそのシナリオに頷いて供述してくれるだろう。


少女は最終的に七杯の牛丼を平らげ、女性店員から何度も感謝の言葉を送られながら未禄と共に店を出た。



********************


「……悪ぃな」


「え?」


「いや、結構食っちまって」


店から未禄宅への帰り道、閑静な住宅街で少女が口を開いた。

そういえばこの少女、会計のパネルに表示された金額を見て少し驚いていたか。

目の前の牛丼に夢中で、何杯食べたなんて意識してなかったのだろう。


「あぁ。……まぁ七杯は多いな。しかも大盛りだし。正直ここまでの出費になるとは予想してなかった」


「ま、いつか返してやるよ。出世払いってやつだ」


「別にいいよ。店でのアレで帳消しだ」


「……は?なんでアンタが帳消しなんだよ。貸し作った覚えはねぇぞ」


「……俺はあれ見て、何も動けなかったからな。そこをお前が出張って行って……なんつーか、救われた。ありがとな」


「……別に。アタシは腹も膨れてきてケンカ欲が溜まってたし、ちょうどアイツらのせいで牛丼も来ねぇから、仕方なく────」


わかりやすい言い訳をボヤく少女が、ふと曲がり角で足を止めた。

その気配に未禄も止まり、振り返る。


「なんだよ、俺ん家はあっちだぞ。……もしかして、今さら男の家に行くの警戒してんのか?別に浴室乾燥かけといたお前の服返すだけなんだけどな。……ま、じゃあ服取ってきてやるから、ここで待ってろよ」


しかし少女は何事もなかったかのように顔を上げた。


「いや、いい。私も行く。別にアンタを警戒なんかしてねぇよ」


少女は再び、未禄宅の方へ歩き始める。

気遣いとかではなく、本当に警戒しているわけではなさそうだ。


「警戒されてないってのは、信頼されてると思っていいのか?」


「ばか。もしそうなっても、アンタなんか返り討ちにできるって言ってんだよ」


その言葉に未禄が笑う。

少女も、そこで初めて笑みを浮かべた。


「……じゃあ何でさっき立ち止まったんだよ」


何となく訊きづらかったが、勇気を出して問いかける。

しかし返答は適当だった。


「別に。何でもねぇよ」


「…………」


しかし何でもない、という感じではなかった。

思い起こされるのは、彼女が間違って未禄宅に入ってきた時の言葉。


──そうだった。アタシ、もうここ家じゃないんだった ──


この少女のことを知りたいと思った。

今まで何をしてきて、今何をしていて、これからどうしたいのか。

なぜあんなにケンカが強くて、しかし空腹時には極端に力を失うのか。

そもそもなぜ、ケンカで強くなりたいと思っているのか。


そう考えた時に、自ずと言葉が出ていた。


「……なぁ、名前なんて言うんだ?」


「は?」


「名前だよ、名前。まだお互い知らないなと思って。俺は未禄、几未禄。珍しい苗字だろ、『おしまづき』」


少女は無表情の中にやや驚きを浮かべたが、特に嫌がる様子もなく口を開いた。


「……愛衣。津田愛衣」


「津田か」


「苗字は好きじゃねえ。愛衣でいい」


未禄はたどたどしく歩きながら、言葉を紡ぐ。


「……愛衣さ。俺、大学入ってもダラダラと毎日過ごすようなグーダラ人間で。何か気持ちがあっても、行動しないことが多かった。それでそのくせ一丁前に自尊心だけ傷つけて、でも変わるきっかけもなくて。万年曇り空だよ」


「……」


愛衣は静かにそれを聞く。


「店員さん絡まれてる時、俺心の中でなんて言ったと思う。『何かしなきゃなのに、何をすればいいか分かんねぇ』だぜ。……笑えるよな、すべきことなんか明白だったろ。身を呈して止めに入らなきゃって分かってた上で、怖くて、自分に言い訳してたんだ」


「……ま、人間だいたいそうだろ」


「かもな。……でもだからこそ、愛衣のエネルギー見て『いいな』って思った。夢を持ってて、実際すげー強くて。しかも、ハンデ背負っていろいろ努力してんだろうなってのも感じる」


未禄は目を輝かせて言う。


「アイツらが言うには、愛衣は『ケンカしたいだけ』ってんでケンカふっかけたらしいけど、本当のところカツアゲを止めたかったのもあるんだろ?牛丼屋でも、店員さんが絡まれたところで動いてたんだし。愛衣の強さは力だけじゃない、むしろ心にこそある気がして。……アイツら全員倒した後の、あの姿を見た時は……なんていうか、惚れ惚れした」


「別にそんなんじゃ───って、ほ、惚れ!?」


突然、愛衣が無表情を大きく崩した。


「そんなに驚くことか?」


「いや、あ、アンタ……!」


『惚れ惚れする』を漢字面通りの意味と勘違いし、愛衣が全身を使ってたじろぐ。

そうとは知らない未禄だったが、勢いに任せて思いの丈を並べる。


「愛衣のこれからを見たいって思った。支えたいって思った。そして、願わくは俺も愛衣みたいになりたいって…………変わりたいって思った。飯とか金のために都合よく使ってくれたっていい。ただ、愛衣がケンカで誰よりも強くなる時、俺もその場にいたい」


「っ……」


「情けない理由だし、情けない人間で、そもそも会ったばっかりの俺だけどさ。お前たこれっきりってのが無性に嫌なんだよ。なんでもいい、これからも一緒にいさせてくれ」


そう言って、素面で愛衣を見る。

未禄としては憧れの存在、尊敬する存在として想いをぶつけたつもりだった。

しかし、愛衣はそうとは捉えなかった。

一度だと思えば最後、全てとして聞いていた。


「急…………っていうか、真面目な顔してそんなこと言われるとか……アタシあんまそういうの慣れてないっていうか……」


歩みを止め、手を顔にやり俯く愛衣。

表情は見えない。


「……?今は(仲間はナシで)一匹狼でやってるってことか?」


「いッ……!?ま、まぁそうだけどよ!もっと言い方があんだろ!」


悪気のない言葉が誤解され、意図せず愛衣をイラつかせる。


「い、いい奴なんだろうとは思うぜ。優しさあるしよ、下心も感じねぇし、何よりアタシなんかに素で接してくれてるし。……でもまだ会ったばっかで、詳しく知ってるわけじゃなくて……」


「これから知ってくれればいいって」


「で、でもアタシの近くにいたら、その、悪いことに巻き込まれるとかあると思うぞ」


「承知の上だって。迷惑かけないよう、俺自身も強くなるつもりだしな。任せとけ、一応高校でも体育は成績良かったし、土台はあるはずだぜ。バレー部レギュラーだったしな。……もう一年以上前になるけど」


「…………」


愛衣がゆっくりと顔を上げ、未禄を見る。

憧れの人に向けるその目に一点の曇りもない。

さながらスターを目の前にしたようなその真剣さ、熱意は、愛衣に少し違った形で届くこととなる。


「…………分かったよ。そんなに真剣なら、いいぜ、隣にいても。……た、ただ!今はまだ見定め期間だ!アタシはそんなにチョロくないからな!『ダメだ』と思ったらすぐに追い出してやるから、そのつもりでいろよ!!」


愛衣は未禄を指さし、真っ赤な顔でそう叫ぶ。

その勢いに未禄も豆鉄砲を食らったような顔をしたが、未禄の願いは通ったと気づき、笑顔が灯る。


「っしゃ、まかせとけ!」


ケンカという不利なフィールドで、それでも強くなりたいと戦う小さな夢追い少女。

その姿に憧れて、支え、自身も強くなりたいと願う少年。

偶然ひととき交わる点でなく、二人は線で交じわった。


彼らの少し変わった青春の物語が、始まる。

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