第3話 童貞の転生先

「未練……」


 光の玉、改め神様の言葉を受け止め、真剣にこれまでの人生を思い出す。


「本当に自分の中に残っている未練はないはずです。でも……」

「はい」

「でも、確かに他人との会話に飢えてました」


 俺は神様の言葉を認めた。


「他にも、友人たちは年相応に成長しているのに、自分はなにも進歩していないように感じてもいました。周りの人間に取り残されているような、そんな感じです。でも、それが未練だったわけじゃない」

「ええ」

「俺の本当の未練は家族以外の他人に必要とされなかったこと」

「……」

「家族、特に両親は無償の愛を俺に与えてくれていたのは知っています。弟妹もなんだかんだ言いつつも俺のことを慕ってくれていたのも知っています。でも、欲深な俺にはそれだけじゃ足りなかった」


 神様は静かに俺の言葉を聞いてくれる。

 否定するでもなく、肯定するでもなく、ただ静かに……。


「思春期のころから女性に異常なほど興奮する自分に愕然としました。自分で言うのもなんですが、自分の心根は腐っていなかったはず……。それなのに、自分の股間はどんな女性にも反応してしまう……。こんなこと誰にも相談できなかった」

「そして、いつの間にか諦めたんですね?」

「そうですね。女性との人間関係の構築を諦めました。いつか自分の性欲が抑えられなくなるのを怖れて……。あとは自分の容姿にも自信がありませんでしたしね」


 最後に茶化すように付け加えた。


「ふふっ。あなたの容姿は結構整っていたと思いますよ、私は」


 茶化したような言葉を気遣ってか、神様は微かに笑う。

 

「さて、あなたの未練はしっかりと聞きました。そこであなたには選択肢を与えようと思います」

「選択肢?」

「そうです。この死後の世界に来る人間は心根が善良で、かつ未練を抱えたものがやってきます」

「そう、なんですね」

「では、あなたに与えられている選択肢を示しましょう。一つ、このまま記憶をリセットして、輪廻に帰ること。二つ、この地で修行し、いずれかの神の仕事を手伝うこと。三つ、記憶を保持したまま、別世界へと転生すること。さぁ、どれがいいですか?」


 神様の提示してくれた選択肢について、考える。

 一つ目を選ぶつもりはない。

 自分の中にある未練を解消した方が良い、そんな気がしたからだ。

 二つ目はありかもしれない。

 死後の世界で修行している間に、自分の未練に区切りを付けられるような気がしたからだ。

 三つめは……。


「神様、自分は三つ目の選択を選ぼうと思います」

「そうですか? あなたなら安定した選択を取ると思っていたので、二つ目を選ぶのかと思っていました」

「いまここが分かりやすいターニングポイントですから、自分は賭けに出ますよ」

「案外、博打を打てる人だったんですね……。あなたの為人を読み違えましたか」

「新しい人生は全力で生きてみたいですから」

「分かりました……。では、あなたの転生する世界を紹介しましょう」


 真剣な雰囲気で話は進んでいた。

 自分が転生するのは剣と魔法の世界であること。

 争いが多く、対魔物や対人間と戦うことが多いだろうということ。

 また、世界の発展具合は地球よりも遅れていること。

 そして……。


「あなたが転生する世界は、あなたの知っているゲームと似た世界です」

「は?」


 神様の思わぬ言葉に、間抜けな声が出てしまった。


「あなたがそう願ったんじゃないですか。エッチなゲームをやり残していたと……。なら、それに似た世界で暮らしたいんじゃないですか?」

「いや、確かにそんな願望はありましたけど……」

「なら、いいじゃないですか。馬鹿みたいに楽しい人生になるかはあなた次第ですが、全力で生きたいなら迷うことはないでしょう?」

「確かに、その通りですね」


 神様の言葉に納得する。

 ゲームに似た世界に転生しようが、もともとの地球に転生しようが、第二の人生は全力で生きたいのは変わらない。

 それにしても……。


「神様がエッチていうと、なんか、その……、もにょりますね」

「なにを言っているんですかね~、この変態は。っていうか、なんですか? もにょるって」

「いや、こう、興奮してはいけないし、真面目な雰囲気なのに、もやもやすると言いますか……」

「はぁ、あなたがどんな人間か知っていますから私は大丈夫ですけど、転生先で似たようなことを言ってはいけませんよ? セクハラです」

「それは大丈夫です!」


 先ほどまではどこか重々しい空気感だったが、いまはどこか明るい雰囲気だ。

 自分の心も少し軽くなったような、そんな気がする。



「さてさて、私がすることはもう特にありませんが、何か聞きたいことはありますか?」

「んー。そういえば、俺が転生する世界って、どんなタイトルのゲームに似てるんですか?」

「それは転生してからのお楽しみにしましょう」

「はぁ、分かりました」

「では、そろそろ転生させますね」

「はい」


 俺は神様に最上の感謝の念を込めていった。


「自分のために、時間を作ってくださってありがとうございました」

「ええ、あなたがより良い人生を送ることを願っていますよ」

「はい」

「では、空馬雄心よ。次の人生を全力で生きなさい」

「はい! いってきます!」


 そうして、俺の意識は薄れていった。

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