第4話 乳児になった童貞、母親たちの不安

 暇だー。


 俺、空馬雄心は無事転生した。

 それはよかったのだが……。


「ぁぶー」


 まさか、赤ん坊のときから意識があるとは思わなかった。

 赤ん坊の身体では食う、寝る、排せつぐらいしかやることはなく、退屈で仕方なかった。

 と言っても、どうやらこの家の住人は赤ん坊の俺を放置するような非道な家ではなく、むしろ俺のことを構ってくれる人が多いようで……。


「あらぁ! ご機嫌ねぇ、バルちゃんっ!」


 そう、何となく声を出すだけで、傍にいる人が話しかけてくれるのだ。

 まぁ、俺が目を覚ましていたら、なにも言わなくともかなり話しかけてくれるのだが……。

 それらのことが影響しているのか、新しい世界の言葉はある程度、理解できるようなっていた。


「それにしても……。バルちゃんは大人しいわねぇ。少し心配になってしまうわ……」

「確かに、そうですね。健康状態は問題ないはずですが、奥様が心配するお気持ちは分かります」

「でしょう?」

 

 そんな風に会話しているのは、母親と俺についているメイドさんだ。

 母さんの容姿はすらっとした鼻筋に整った美人に見えるような卵型の輪郭。 

 ダークブロンドのような髪色をしており、瞳は茶色より少し明るい色で若干たれ目。

 まあ、ごちゃごちゃと言ったが、かなり綺麗な容姿をしているのが、俺の今世の母さんだ。


 そして、メイドさんはというと、俺の乳母を兼任しているメイドさんで、クラシカル? なメイド服に、少し釣り目気味の鋭さを含む目、度数の強そうなメガネをかけた美人な人だ

 メイドさんの名前は確かベネリーだったと思う。

 なぜ“思う”なのかというと、眠気が強いときにぼやっと聞いた程度なので、正しいかどうか分からないからだ。

 ちなみに、母親の名前もまだ分からない。

 メイドさんたちは奥様と呼んでいるからだ。


「それにしても、バルちゃんはあまり泣かないわね……。普通の赤ちゃんって、もっと泣くものなのよね?」

「そうですね……。奥様にとって、ヴァロラス様が最初のお子になりますが、ヴァロラス様はほかの赤子とは違うように感じます」

「やっぱりそうなのね……」


 母さんは心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。

 そして、いつものようにゆっくりと俺を抱き上げてくれた。

 手付きは丁寧で優しく、俺のことを本当に大事にしてくれていると感じられ、心が安らぐようだった。


「バルちゃん……。私の可愛い可愛いバルちゃん。もっと泣いてもいいのよ?」


 母さんは優しい表情で、俺に向かって言い聞かせる。

 そんな母さんのようすに、ベネリーは気遣うような声音で言う。


「奥様、あまりお気になさらぬようにお願いします」

「そうは言っても……」

「ヴァロラス様は順調に育っております。確かに、あまり泣かないのは気になります……。ですが、医師の話では健康に問題なしと言われております」

「そう、ね……。あまり心配しすぎるのも良くないのかもしれないわね」

「はい」


 そういうベネリーも心配そうな雰囲気を隠せていない。

 おそらくはベネリー自身にも言い聞かせるような意味もあるのだろう。

 母さんは俺を優しく抱いたまま、ゆらりゆらりと俺を寝かせるように身体を優しく揺らす。


「それにしても、ベネリー?」

「なんでしょう、奥様?」

「あなたもバルちゃんって、呼んでもいいのよ?」

「いえ、ヴァロラス様はいずれ私たちが仕える方ですので」

「もう、ベネリーったら頑固なんだから」

「まだお小さいヴァロラス様には、いずれ家を代表する方になって頂かなければなりません。今のうちからしっかりとした線引きは必要です」

「それはそうだけど……」


 美人な母さんが口をとがらせながら、可愛らしく言う。

 そんな母さんを諫めるように進言するベネリー。

 どちらの口調にも気安さのようなものを感じてしまう。

 良い主従関係を築いているのだろうと分かる。

 そんな母さんたちを見て、何となく嬉しくなった俺は自然と笑っていた。


「キャッキャ」


 俺が笑っていると、母さんたちもより優しげに微笑む。


「ふふっ。バルちゃんもご機嫌ね? 何かいいことでもあったの?」

「もしかしたら、私たちの会話が可笑しかったのかもしれませんね」

「そうなのかしら? もしそうならバルちゃんは賢く育ってくれるかもしれないわね~」

「私たちが心優しく、賢い殿方に育ってもらえるように尽力します」

「まぁっ! あなたたちだけに教育を任せるつもりはないわ。私もバルちゃんが立派になるように頑張るんだから」

「もちろん承知してございます、奥様」


 母さんとベネリーは、軽快に会話を続けていく。

 俺はそんな楽しげな二人の会話を聞きながら、眠りへと落ちていった。

 



ベネリー視点


「眠りましたね、奥様」

「そうね」


 奥様はそっとヴァロラス様をベッドへと寝かせました。

 ヴァロラス様は穏やかな表情ですやすやと眠っています。

 

「さっきはいろいろと言いましたが、ヴァロラス様にはただただ健やかに育ってほしいものですね」

「そうね、ベネリー。でも……」


 奥様が何か言い淀みます。

 それに見当のついている私は、先んじて言います。


「婚約、婚姻ですか?」

「ええ。この家の当主になるということは、女性との関係を多く持つということ……。私はあの人の為人を理解し、能力も知った上で、バルちゃんを産んだわ」

「そうですね」

「どうか、バルちゃんにも理解のある、良い人と結婚できるように願うわ」


 ヴァロラス様は私たちの心配など関係ないと言わんばかりに、すやすやと寝続けます。

 私たちは、そんなヴァロラス様を優しく見守っていました。


____________________

あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ソラゴリです。


ここまで読んで、面白いと思った方や、続きが気になる方は作品フォローやレビュー、応援ボタンを押してもらえると、作者のモチベーションになりますので、よろしくお願いいたします。


次回は、少しキツイ下ネタがありますが、今後に大事な話ですので、是非読んでいただければと思います。

拙作をよろしくお願いいたします。

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