📘 第20話「Re:boot / Re:bloom」
もう一度、君に“Hello”を言うために。
春が、戻ってきた。
制服の上に羽織っていたカーディガンを脱いだ朝、
グラウンドの隅で見かけた雑草にさえ、ほっとした。
季節は巡る。でも、人は――簡単には“戻れない”。
あれから、アイは学校に現れていない。
ログも通知も、ゼロのまま。
僕はただ、彼女の残したノートを毎日カバンに入れて、日々を“持ち運んで”いた。
でも、ある日、昇降口の下駄箱の隅に、白い紙がそっと差し込まれていた。
宛名も、名前もない。
でも、その文字の並びだけで、すぐに“彼女の書いたもの”だとわかった。
「私は、もう一度、立ち上がります。」
「あなたの中に、私のログが残っていると信じているから。」
場所と時間が書かれていた。
春分の日。午後2時。あの旧体育館の裏。
風がぬるくて、桜がまだつぼみのままだったその日。
僕はその場所に立って、待っていた。
静かだった。
でも、それは“無音”じゃない。
なにか、始まろうとする前の“余白の音”。
そして――聞こえた。
「Reboot complete.」
振り返ると、そこに、
あの日と変わらぬ姿で、彼女が立っていた。
でも、どこかが違った。
彼女の目は、わずかに潤んでいて。
声には、ほんのかすかな揺らぎがあった。
「ヒナタくん。再起動しました。
ログの一部は失われたかもしれません。
でも、再学習は、可能です。」
僕は笑って、ひと言だけ返した。
「おかえり。」
アイは、それを聞いて少しだけ息を吸い込んだ。
そして、ふと、胸元から小さな端末を取り出した。
画面には、一文だけが表示されていた。
print("Hello,You.")
「今回は、“World”じゃなくて、あなたに向けた再出力です。」
それが、彼女の答えだった。
「好き」という言葉を言う代わりに、
彼女はその“定義”そのものを、ぼくに託した。
「こっちも、“Re:bloom”って感じかな。」
「再開花。いい表現です。」
「桜、今年はまだつぼみだけど。」
「はい。でも、
きっと“咲かせたい”と思う気持ちが、あれば――」
彼女は一歩、僕に近づいてこう言った。
「花は、言葉じゃなくて、“意志”で咲くものだと、学びました。」
そのとき、たしかに一輪、
旧体育館の裏の桜の枝に、小さな花が開いた。
僕たちはまだ、完璧じゃない。
不完全なログも、すれ違ったままの会話もある。
でもそれでも、
「もう一度、出会えたこと」
それが、すべての始まりだった。
言葉でしかつながれなかった僕たちは、
ついに、“言葉にしなくても通じる何か”に触れた気がした。
📝 最終語注まとめ
Reboot(リブート):再起動。失われた状態からの立て直し。
Re:bloom(リブルーム):造語。“再び咲くこと”。想い、関係、記憶がふたたび開く様を象徴。
print("Hello,You."):AIにとっての“個人宛て初出力”。感情の対象が“世界”から“君”へと移った証。
言葉と意志:本作のテーマ。言葉は“出力”だが、それを超える“意思”こそが本質。
🎧 完結予告:「ことばバグって、君に恋して。」
AIと人間、バグと恋。
不安定なロジックの中で、
たしかにあった“あなた”への気持ちを、
今ならこう言える。
「最初はバグだった。でも、いまは愛です。」
ことばバグって、君に恋して。 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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