そこで、穢れに侵された海を見た精霊術士は、
「しっかし……海がこんな状態となると話が変わってくるな……。クー。」
〈なに?〉
「水の大精霊様ってあの状況の海でも大丈夫なの?」
〈……数日くらいなら問題ないと思うけど、一ヶ月続いたら厳しいと思う。〉
「そうなると……急いだ方が良さそうだね。」
さっきギルドで話を聞いた時は数ヶ月と言っていた。言い方的に、最低でも二ヶ月は経過してそうな感じだったし……大精霊様はかなり厳しい状況に置かれていると見て間違いないだろう。精霊は他の生き物とかに比べて圧倒的に穢れの影響を受けやすいし……水属性となると尚更だ。
「まあ、まずはリアと合流することからかな。」
そう呟いて、僕は走り出した。
「── る人がいるので……。」
「つれないこと言うなよ。ちょっとその辺を一緒に歩きたいだけだからよ。」
人気のない街を駆け抜けること数分。集合場所にしていた広場に高津開いてきた僕は、リアと誰かが何かを話しているのを耳にする。見れば、一人の男性がリアに声をかけているようだ。
「すみません、私も私で用事があるので……。」
愛想笑いを浮かべながらそう言うリアだったが、その愛想笑いが引き攣っている。
「── 彼女に何の用ですか?」
僕は社交用の笑みを浮かべつつ、リアの背後から男性に話しかける。
「あ、ユーリ!」
そんな僕に気づいたリアは、明らかにトーンの上がった声でこちらに駆け寄ってくる。浮かべている笑顔も明らかに輝きが増している。
「チッ、連れが来たか……。……ってあん?こっちもこっちでなかなか綺麗な顔してるじゃねぇか。」
僕の声を聞いて明らかにテンションの下がったような様子を見せた男だったが、僕のことを見た途端機嫌を直したようにそう言った。
── もしかしてこいつ、僕を女と勘違いしてる……?いや、でもこっちの勘違いの可能性もあるし……。
そのことに気づいた僕は心を外に出さないように笑みを深める。
「あ……。……御愁傷様……。」
そんな僕の様子を見たリアは、何かを察したような顔をした後、誰にも聞こえない声でそう呟いた。
「どうだ?俺と茶でも……。」
「お断りします。」
「何だよ。嬢ちゃんたち二人とも冷たいな。いいじゃねえか、ちょっと時間を潰すだけだからよ。」
そう言いつつ彼は僕の腕に手を伸ばしてくる。
── 確定、かな? ……こんなこと言われたのは久しぶりだけど……。……やっぱりイラつくな。こいつは……冒険者っぽいな。なら、多少のいざこざは自己責任だね。
男の首元からチラリとのぞいたタグを目にした僕はそう結論づけ、そのまま男の腕を掴む。そして、
「何だ……!?」
そのまま勢いよく男の体を地面に叩きつける。
「がっ!?テメェ、いきなり何しやがる!」
「別に?危険を感じたから咄嗟に投げただけですよ。」
「ふざけんなこのクソアマ!」
そう言いつつ彼は僕に向け拳を振るってくるが、僕はそれを最小限の動きで躱し、がら空きになった胴体に一撃を叩き込む。
「かはっ!?」
「あのねぇ……声をかける相手はちゃんと見て、言葉遣いにも気をつけた方がいいよ?下手に声をかけちゃいけない人もいるし、相手の地雷を踏み抜く可能性もあるしね。……僕、女見たいって言われるの嫌いなんだ。リア。行こ。」
「う、うん……。……やっぱユーリは怒らせちゃ駄目だ……。」
そう最後に一言忠告し、僕は地に伏した男を尻目にこの場を去るのだった。
「── それで、ユーリの方はどうだった?」
しばらく歩いたところで、リアがそう聞いてくる。
「そうだね……ここなら誰も聞いてなさそうだし大丈夫かな。」
周囲に盗み聞きをしそうな気配がないことを確認し、僕はリアに海で気づいたことを話す。
「多分リアも聞いたであろう治安の悪化もこれが原因だと思うから、これを何とかするのが最優先になるね。」
「そうだね……でも、何でまた穢れが……?」
「それだよね……。普通、あそこまで海が汚染されるようなことはないはずなんだけど……。……いや、まさかね。」
「?何か思いついたの?」
「いや、最近法国が大規模な浄化をやってたなぁって……。」
「……流石に考えすぎじゃない?」
「……だよね。」
リトス法国は大体100年前に成立した国で、メナス教って言う宗教の総本山があることで有名な国だ。その影響か、神聖魔法を使える人が多くて、アンデッドモンスターとか穢れに汚染された地域の浄化とかをしてるんだけど……。最近、法国の神聖魔法の質が落ちてるっていう噂が冒険者の間で流れてて、もしかしたら……って思っちゃったけど……。流石に考えすぎだよね。
「とりあえず、海底遺跡周辺の浄化は確定として……できれば、原因の特定もしておきたいね。」
「そうだね。……いつから攻略する?」
「うーん……今日で装備を整えて、明日の朝から攻略ってできそう?」
少し考えた後にそう聞いてみると、
「ちょっと装備を見直す必要はあるけど、大丈夫。」
と返ってくる。
「それじゃあ、一旦宿に戻って準備を始めよっか。……くれぐれも、あの指輪を忘れないようにしてね。」
「うん。」
そうして今後の予定を決めた僕たちは、宿へ向かって歩いていくのだった。
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