次に二人が向かったのは、テティ海底遺跡。
「そろそろテティの街かな?」
「うん。普段と違うしてきたし、そうだと思うよ。」
テティの街へ向かう乗合馬車の中で、僕とリアはそんなことを話していた。
「それにしても、楽しみだね!」
「そうだね。僕も海を見るのは初めてだし、いろいろ美味しい魚もいるらしいしね。」
「── あんたら、テティの街に行くのか?」
そんなことを話していると、同じ馬車に乗っていた一人の男性がこちらに話しかけてくる。
「はい。そのつもりです。」
「そうか。観光か?」
「一応それ以外の目的もありますけど、時間があれば街を回ろうかなとは考えてますね。」
「そうか……。なら、悪いことは言わねぇ。別の街にしておいた方がいい。」
「どうしてですか?あの辺りは以前から人気の観光地だったはずじゃ……?」
「ああ。だが、ここ数ヶ月であの辺の海はかなり変わっちまったんだ。」
「と言うと?」
「ここ数ヶ月で、あの辺の海の水質が一気に悪くなったんだよ。透き通ってた海も濁ってるし、魚の数も一気に減っちまった。」
「そんな……一体何が……。」
「さあな。あの辺のギルドでも調べてるらしいが、何の手がかりも得られてないらしいぜ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「おう。……じゃあ、俺はここで降りるな。あんたらの旅がいいものになることを願ってるぜ。」
「貴重な情報をありがとうございます。」
そして、僕たち以外の乗客がいなくなった馬車の名で、僕たちはさっきの情報について話し合う。
「海が濁ってるって言ってたよね……。」
「うん……。何が起こってるんだろう……?」
「考えられるのは、テティ海底遺跡にいる大精霊様の力が弱まってるか、あそこの海に面している国のどこかが悪さをしてるか、その両方か……。」
「とにかく、現地でいろいろ調べてみないと分からなさそうだね。」
「うん。……楽しみにしてたけど、海とか魚はお預けになっちゃうかもね。」
「まあ、こんな状況じゃ仕方ないよ。それより、まずは大精霊様だよ!」
「そうだね。もしかしたら、それで良くなるかもしれないし、少し予定を早めて海底遺跡に向かおっか。」
「おっけー!」
そしてテティの街にたどり着いた僕たちは、その街の様子を見、率直な感想を口にする。
「……何だか街に元気がないね。」
「うん。どこも寂しそうだし、閉まっちゃってる店も多いね。」
「これも海がやられたせいかな……?……とりあえず僕は、ギルドに行っていろいろ聞いてみるね。リアは街の人に話を聞いててくれない?三時間後にここで集合でいいかな?」
「うん。気をつけてね。」
「リアも気をつけて。」
そんなやりとりを経て一時的に別行動を取ることにした僕は、この街のギルドへと足を運んでいた。
「── ここか……。やっぱりここも他の街に比べて人気がないな……。……とりあえず、入るか。」
そして僕がギルドに足を踏み入れる。この街のギルドは、チェブリスの王都やフォグ、ハクメイのギルドとは違い、中で飲んだくれている複数の冒険者を除きほとんど人がいなかった。
「すみません。少しいいですか?」
「!はい!何のご用でしょうか?」
受付カウンターに座っていた茶色の髪をボブカットにした犬耳の女性に僕が話しかけると彼女は驚いたように肩を跳ねさせた後、僕にそう聞いてくる。
「この街の状況を聞いておきたいなと思いまして。今さっきこの街に着いたところなんですが、噂と違ってほとんど人がいなかったので。」
僕がそう聞くと、彼女は少し悲しそうな表情をし、言う。
「……ここ数ヶ月で、この辺りの海が汚れてきたのはご存知ですか?」
「ここにくる道中で、噂程度に。」
「実は、海が濁り始めたのと同時期に、この街の治安が悪化し始めたんです。」
「……どういうことですか?」
「こちらでもこの二つに何らかの因果関係があると言い切れるわけではないのですが……海が濁り始めてから、一部の住民、特に海で仕事をしていたり海沿いに住んでいたりする人たちが暴力事件を起こしたりするようになったんです。」
「それは……たまたまとは言い切れないですね……。」
「そのせいで街の人は家から外に出るのを控えるようになり、海が濁ったことと合わせて人がほとんどいない、という状況になっているんです。」
「なるほど……。ちなみに、これからその海を見に行こうと思ってるんですけど、何かわかった場合はどうすればいいですか?」
「もし何か気づいたことがあれば、こちらに報告してください。」
「分かりました。」
こうしてギルドでの情報収集を終えた僕は、そのまま海へ向かった。
「着いた……。……これはひどいな……。」
しかし、そこに広がっていたのは昔魔導具を通して見た底が見えるほど透き通った海ではなく、砂で濁り所々に木材の破片やロープのようなゴミが見える海だった。
「この感じ……船が事故でも起こしたのかな……?」
そう思いつつ僕は海に近づき、水を掬い取る。その瞬間、僕の手にピリッとした刺激が走り、僕は思わず水をこぼしてしまう。
「今の……毒とかじゃなさそうな感じだけど……もしや!?」
僕は首からかけていたペンダントを外し、再び水を掬い取る。すると、それまで濁っていたはずの水が、汚れがどこかに吸い込まれるようにして綺麗な水へと変わっていく。
「やっぱり……。……これ、かなり不味くない……?」
それを見た僕は自分の仮説を確証に変えると同時に、一つの可能性に思い至る。
「とりあえず、まずはリアと合流しよう。」
流石に一人では何ともできない。そう判断した僕は、リアと合流するため、リアと別れた広場へと向かうのだった。
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