精霊王様の危険を察知し、そのもとへ急行しました。

「ほれ、ここがテティ海底遺跡だ。」


翌日。僕たちはテティ海底遺跡まで船を出してくれる人を見つけ、早速海底遺跡まで向かっていた。


「しかし、本当にここまででいいのか?」

「はい。帰りは何とかできますので。」


── それに、この辺に長居するのは船長さんにも悪影響を与えることになるしね。


「そうか……それじゃあ、気をつけてな。」

「はい。エル。」

〈ん〜?了解〜。〉

「〈風膜ふうまく〉。……リア、行くよ。」

「うん。」


そして、エルの力を借りて海水の侵入を防ぐ風の膜を体の周りに展開した僕たちは、海底遺跡に向け潜水を開始するのだった。


「── これは酷いな……。」


海に潜った僕の第一声がそれだった。


元は綺麗な珊瑚礁が広がっていたであろう海は濁り、珊瑚もところどころ死滅している。そのせいか辺りには生き物の気配が全く感じられず、非常に静かな海となっている。


「そうだね……。しかも、生き物だけじゃなくモンスターの気配すらないよ……。」

「とりあえず、先を急ごう。」


そうして先を急ぐ僕たちの視界に、やがて不自然な境界が目に入る。


「ん……?ここから先の水が濁ってない……?」

「何でだろう?」

〈……これが大精霊様の力。〉


通常ではあり得ないその様子を疑問に思っていると、ふとクーがそう口にする。


「?と言うと?」

〈大精霊様の一番の力は、水を操ることじゃなくて水を浄化すること。だから、この辺りは水が綺麗なまま。だけど……。〉

「僕たちと一緒で、それを外に出せない、と……。」

〈そう言うこと。〉


それを聞き、ここの大精霊様の余裕があまりないことを察した僕は、少し危ないやり方をすることを決意する。


「……リア、ちょっと無理するから、離れててもらっていい?」

「わかった。」


そしてリアが十分に離れたことを確認し、僕はライとエルを呼ぶ。


「二人とも、お願いね?」

〈わかった!〉〈了解〜。〉


そしてライは、周囲に電気を発生させる。


「〈電解〉……〈大気制御〉。」


その電気で発生した気体をエルの力で維持し、僕は水中に気体のトンネルを作り上げる。


「これでよし……。あんまり長く維持はできないから、走るよ。」

「了解!」


そして海底遺跡まで一直線に続いているそのトンネル内を、僕たちは駆け抜けていく。


「着いた……。」

「結構……ギリギリ……だったね……。」


僕たちの後ろで風のトンネルが崩れ、水が流れ込む音を聞きながら、僕たちは息を切らしながらそう口にしていた。


「まさか、穢れが溶け込んだ水が、ここまで影響してくるなんて……。」

「影響……?」

「僕の使ってる精霊魔法って、効果や規模が干渉する対象の状態や周囲の環境に大きく左右されるんだけど、その中でも特に穢れに対して弱いんだよ。」

「そうなの?」

「うん。精霊自体が穢れに弱いのもあるけど、、穢れって自然に影響を与えやすいんだよね。」

「そうなんだ……。」

「で、昨日クーに聞いたんだけど、大精霊様、どうも自分に穢れをため込む形でこの辺の水質を維持してるみたいなんだよね。」

「……それって、かなりやばいんじゃ……?」

「うん。だから、今回はちょっとずるをさせてもらうね。」

「え?」

〈着いた。いつでも大丈夫。〉


僕の言葉に首をかしげるリアの声と同時に、クーからの念話が届く。


「てことで……転移。」


そして、僕はリアの手を取り、クーを目印に転移する。


「ここは……?」

「この海底遺跡の一番奥だよ。本来なら、ここから大精霊様のところへ行けるらしいんだけど……。どうやらそう簡単にはいかないみたいだね。」


僕は、大精霊様のもとへ続いているであろう扉の前に鎮座する巨体を見ながらそう口にする。


── 扉の前には、数十メートルはあろうかという巨体を丸め、一体のモンスターが眠っていた。しかし、それは僕たちの存在に気が付くと、閉じていた瞼を開き、こちらを睥睨する。


黒く細長い瞳孔が縦に走った黄色い瞳に、透き通るような青色の鱗。それは自身の眠りを妨げた存在を排除すべく、人間には聞き取れないような音域の咆哮をあげる。


「きゃん?!」

「うるさ……。」


その不意打ちじみた咆哮に、リアは耳をふさいでその場にしゃがみこんでしまう。だけど、それも仕方ない。事実、すっごい不快な音だしね。


「ていうか、聞いてた話と違うんだけど……?」


そんな咆哮に顔をしかめつつ、僕はそうつぶやく。


── 事前に聞いていた情報だと、ここに出現するのはSランクモンスターの海龍シーサーペントだったはず。だけど、目の前にいるそいつは海龍なんかとは比にならない威圧感を放っている。


「まさか、穢れの影響……?……まあ、やるしかないか。リア、大丈夫?」

「うん……。もう大丈夫。」

「それじゃあ……怪物狩りといきますか。」


僕は、目の前の怪物 ── 海龍王リヴァイアサンを見据えながら、そう宣言した。

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