新たな仲間と出会い、

ダンジョンの中を、僕は駆け抜けていく。


── あの子からの報告が本当なら、放っておくわけにはいかない。……だけど、このままだと時間がかかりすぎる。


「仕方ないか。ライ。」

〈!オッケー!〉


その瞬間、僕の身体の表面に紫電が走る。


── これで間に合うかな?


そして、先ほどまでとは比べ物にならない速度でダンジョンを走り抜ける僕の目に、やがて一つの大きな影が映る。そして、それの放った衝撃波が頭を掠めた、一人の少女の姿も。


「ライ!」

〈大丈夫、準備できてる!〉

「行くよ!〈雷槌らいつい!〉」


僕たちがそう唱えた瞬間、周囲に轟音が響き渡り、雷光が視界を埋め尽くす。僕たちの放った雷の槌は影の三つの首のうち一つを吹き飛ばし、そのまま奥の方にあった崖に着弾する。


── とりあえず、これであの子への追撃は止められたかな?


「間に合うかギリギリだったけど、危なかった……。君、大丈夫?」


僕はそう言って、少女の方を見る。彼女は黒い髪に同じく黒い瞳の小柄な少女で、頭からは狼の耳が生えている。


「う、うん……。」


僕はそんな彼女の様子を見つつ、思案する。


── 可愛い……。……って今はそんなこと考えてる場合じゃない!……さっきの動きを見てた感じだとかなりのダメージを負ってそうだったけど、今はそんな様子がない……?何らかの手段で回復したのかな?でも、そんな素振りはなかったし……。それに……何でこんなに魔力が淀んでる・・・・んだろ?


「危ない!」


すると突然、少女がそう叫ぶ。後ろを見れば、影 ── ヒュドラが首を再生し、こちらに向け衝撃波を放とうとしている。だけど ──


「大丈夫。これは師匠が言ってたんだけどね?波って、対象までの間に波を伝えるものがないと影響を及ぼせないんだって。」

「突然何を……?」


彼女の怪訝そうな言葉を無視し、僕はエルに呼びかける。


「エル。」

〈了解!風絶ふうぜつ!〉


すると、僕達とヒュドラの間に、空気のない空間が壁のような形で出来上がる。ヒュドラの放った衝撃波はその壁に衝突し、僕たちに何の影響も及ぼさずに消滅する。


「嘘……!衝撃波を、あんな簡単に……!」

「クー、エル、アス、この子をお願い。レイ、ライ、いくよ。」


その光景に驚く少女をクー達に任せ、僕はヒュドラを見る。ヒュドラは先程の攻撃で衝撃波が効かないことを察したのか、丸太ほどの太さのある尾で薙ぎ払いを放ってくる。


「〈電場展開。〉」


ヒュドラの尾から分泌された毒液が僕たちめがけて飛んでくるが、僕達の発動した魔術の効果でそれは僕達を避けるように動き、後方に着弾する。


── あの子のほうに飛んで行ったやつも皆がちゃんと防いでくれてる。これなら大丈夫かな。……しかし、どうしよう?このまま魔法で何とかするのもいいけど、そうすると素材が取れないからなぁ……。こいつ結構レアだし……。……よし、久しぶりにこっちにするか。


「〈〈創造クリエイト炎雷刀えんらいとう。〉〉」


僕達がそう唱えると、僕の手元に一振りの刀が出現する。燃えるように赤い刀身に紫電が走るその刀を正眼に構え、僕はふっと体の力を抜く。そしてそのまま自然な動きでヒュドラに肉薄し、三つの首を同時に斬り飛ばす。ヒュドラは轟音を立てて倒れ、そのまま動かなくなる。


「……これでよし、と。」


僕は刀を維持していた魔法を解除し、少女の方を見るのだった。


── リア 視点 ──



「あなた達は、もしかして精霊さんですか?」


ヒュドラの放った毒液を逸らしてくれた三つの魔力の塊に、私はそう問いかける。


〈もしかしてこの子、視えてる?〉

「はい。……昔から、目は良かったので。」

〈珍しいね。精霊に関係ある天賦ギフトじゃなさそうなのに。〉

「それで、あなた達は彼の?」

〈そう。ユーリと盟約を結んでる。〉

「そうなんですね。……一つ、聞かせてください。彼は一人で、ヒュドラに勝てるんですか?」


ヒュドラはSランクに分類されるモンスターだ。それを単独ソロで倒そうとなると、それこそSランクの冒険者じゃないと無理だろう。でも、気配的に、彼はそこまでの実力者じゃないように感じた。


〈大丈夫だと思うよ〜。修行中によく倒してたし。〉

「え?それはどういう……?」

〈見てればわかる。〉


風属性の精霊さんに対する私の問いを遮るような形で、土属性の精霊さんがそう言う。


── その瞬間、場の空気が一変する。先ほどまではそんな気配が全くなかった彼が、どこからか出てきた刀を手に取った瞬間、皮膚が粟立つような圧力プレッシャーを放ったのだ。そして一瞬でヒュドラに肉薄すると、その首を全て同時に斬り飛ばす。


「……!見えなかった……!」


これでも動体視力はいい方だと自負してたけど、私は彼の動きを捉えられなかった。それほどまでに疾く、自然な動きだった。


「これでよし、と。」


彼はそう言ってこちらを見るが、そんな彼の髪の色が変わっていた。具体的には、銀色ではなく白色、だけど、少しだけくすんだような色に。


「髪の色が、変わってる?」

「あー、これ?やっぱり目立っちゃうか。これは僕の体質・・のせいかな。それより、何でヒュドラと一人で戦ってたの?」


苦笑いを浮かべながら彼はそう聞いてくる。その瞳は澄んでいて、私を慮っていることがよく伝わってくる。


「それは ──」


彼は信用できる。そんな彼の瞳を見てそう直感的に感じた私は、一人ヒュドラと戦っていた理由を彼に話すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る