そして、ダンジョンの奥で、

「── という感じですね。」

「なるほど……。」


あれから数分。彼女 ── リア ── の話を聞き終えた僕は、その内容に少し考え込むことになった。


彼女の話した内容をまとめると、こんな感じだ。


彼女含む四人のパーティーは、Cランク。今日は少し挑戦する意味でこの階層に挑んでいた。いつも通りダンジョンを進んでいき、その途中でモンスターを倒した瞬間、ヒュドラが出現。残りのメンバーはリアを残してギルドに向かったらしいけど……。


「エル。」

〈任せて!〉


僕はエルに頼み、長距離で会話するための魔法を発動する。繋ぐのは、ギルドのサブマスターだ。


「おや、ユーリ君ですか。どうかしましたか?」

「レンさん。そっちに『暁の明星』ってパーティーいます?」

「ああ、それなら丁度話を聞いているところですよ。」

「その人達は何て?」

「何でも、突然ヒュドラが出てきたとか。」

「他には何か言ってないですか?」

「いえ、特には何も。」

「なるほど……。わかりました。……あ、あと、そのヒュドラは今さっき倒したんで後で素材持ってきますね。」

「え!?ちょっと待って……」

「じゃ、また後で。」


僕の言葉にレンさんが何かを言おうとするが、正直それどころじゃないから僕はさっさと魔法を切る。


「どうでしたか?」

「残念ながら……。……どうやら君は、見捨てられたみたいだね。」


正直心苦しいけど、ここで嘘をつくメリットはない。僕が事実を正直に伝えると、


「そう、ですか……。」


と、リアはどこか悲しそうで、だけどどこかでわかっていたという風な顔をする。


「── 実は、前々からそんな気はしてたんです。初めのうちは、いい関係でやっていけてたんですけど……。ここ二、三年は、私がのけものにされている、というか、私以外の三人で動いて、私は囮というか、捨て駒というか……。そんな扱いになることが増えてきてたんです。」

「それは……。」

「私の勘違いだと信じてたんですけど……やっぱり悲しいですね。」


そう言って悲しげな笑みを浮かべる彼女は、このまま放っておいたらふらっと消えてしまいそうに見えて。


「……ねえ。もし良かったら、僕とパーティー組まない?」


気づけば僕は、そう口にしていた。


「── へ?」


そんな僕の言葉に、彼女はぽかんと口を開け、そう声を漏らす。


「流石に突然すぎたかな。とりあえず詳しく説明させてもらうね。まず、冒険者は単独ソロじゃなくパーティーで行動すべき、これは分かるよね?」


僕の言葉に、彼女は頷く。当然だ。ダンジョンでの単独行動は、一つのミスが命取りになる。仲間がいればそれだけリスクを減らすことに繋がる。


「それに……。僕なら君の体質・・も、なんとか出来るかもしれない。」


続けて僕がそう言うと、彼女は顔をこわばらせ、明らかに警戒心に満ちた目でこちらを見てくる。


「どこでそれを……!」

「結構前、じいちゃんが愚痴ってたんだよ。『銀狼族の勝手な行動にはうんざりしてる』って。」

「……本当、ですか?」

「ほんとほんと。」

「……何か証拠は?」

「証拠かぁ……。……ま、ここなら大丈夫か。」


僕は周囲に人の気配がないのを確認し、小さく「祖血解放」と呟く。


「!それは……!」

「これで信じてくれる?」

「……流石にそれを疑うのは無理ですね。……分かりました。それで、私の体質をなんとか出来るって、本当なんですか?」

「うん。師匠との特訓中に見つけたあそこ・・・なら、多分その淀みもなんとか出来ると思うよ。」

「それは一体?」

「まあ、これは後でになっちゃうかな。パーティーを組むまでは教えちゃまずいかもだし。」


主に、師匠が怒りそうだからだけど。


「……分かりました……。……それで?このまま戻りますか?」

「いや……その前に少し、寄っていきたいところがあるんだ。」


そう言いつつ僕は、さっきから髪の毛を引っ張り始めたレイ達に問いかける。


「皆が僕に会わせたいって言ってた人は、あの奥にいるの?」

〈うん!早く行こ!〉

「はいはい。……そういうことだから、悪いけどちょっとついてきてもらってもいい?」

「私一人で戻ってはダメですか?」

「そうだね……。……ギルドに戻ったら君のパーティーメンバーに出くわす可能性もあるし、正直一人で戻るのも厳しいでしょ?」

「大丈夫で……」

「もちろん、呪いに頼らずに、だよ。」

「それは……。」

「それが淀みの一番の原因になってるからね。」

「……分かりました。」

「うん。……それじゃあ、行こっか。」


そう言って僕達は、雷槌らいついが着弾したことでその姿を見せた洞窟へ入っていくのだった。


「── そろそろかな?」

〈うん!〉

〈すぐそこ。〉


薄暗い巣窟を歩くこと数分。やがて僕達の目に、出口と思しき光が見えてくる。そして、洞窟を抜けた先には、


「うわぁ……!綺麗……!」


たくさんの雪晶花スノークリスタルフラワーが、光を浴びて輝いていた。


「── おや、ようやく来てくれたようだね。待っていたよ、ユーリ君。」


そして、その中央にある東家にいる人影から、そう声をかけられる。

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