第10話 目覚め、それから・・・・


 ―――『アシュ、お前は目が良い、敵だけじゃなく味方も見るんだ』


 目の前には師匠の大きな背中

 そして師匠の視線の先には3メートルはあろうかというロックベア

 熊型の魔物で表皮が岩のように固い


『今から俺の動きに合わせろ』


 そう言って師匠は目の前から消えた


 いやいや、この動きに合わせろって・・・・

 死に物狂いで食らいつくが師匠の動きは何となくしかわからない


 これが修行していたころの日常だ

 そう、これは―――


「夢・・・・か・・・・」


 気づくと見慣れない天井

 清潔なベッドに左手から感じる温もり

 窓からは月明りが差し込んでいた


 「ここは・・・・」


 視線を左下に向けると自分の腕を枕にミリアが眠っていた

 一体この状況は・・・・意識を失う前は何をしてたっけ

 収穫祭で・・・・討伐大会に出て・・・・そうだ!


「ラージトードは・・・・グギィ!」


 起き上がろうとしたが全身に痛みが走り、動くことができなかった

 そう言えば【魔力変換】で身体を酷使したんだった

 手を握るだけでも痛みが走る


 ここがどこだかわからないがミリアも無事だったか・・・・

 とりあえず今の状況に安堵する


 そして安心したら再び睡魔に襲われ、そのまま受け入れた



 翌朝、人の話し声で目が覚める

 ぼやけた視界を調節するよう数回瞬きをするとだんだんと声の主が見えてきた


「レイ兄・・・・?」

「っ!・・・・アシュ!気づいたのか!」


俺の声にベッドの側にいたミリアは身を乗り出し、レイ兄は振り返った驚いて振り返った


「グギィ!」


 起き上がろうとすると相変わらず激痛が走った


「まだ安静にしてないとだめだよ」

「・・・・私のせいで全身ボロボロ・・・・」

「俺が未熟なだけで、ミリアのせいじゃないないよ」


泣き出しそうなミリアに声を掛ける

日常会話くらいなら話せそうだ


「2年たっても無茶をするところは変わらないな」

「レイ兄も元気そうでよかった」

「はは、今のアシュに比べたら誰でも元気さ」

「ははは、うっ・・・・」

「あ、ごめんごめん」


 今の俺は笑うことさえできないのか


「ま、無事でよかったよ」


 安堵するレイ兄の後ろで少年が様子を伺っていた

 俺が少年を見てることを察したレイ兄が手招きで少年を俺の前に立たせる


「紹介するよ、この子はミト

 僕の助手として一緒に商いをしているんだ」

「初めまして、ミトです

 アシュさんとミリアさんのことはローレイ様から家族のような存在と伺ってます

 僕にできることがあれば、何でもお申し付けください

 どうぞよろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 俺たちより年下に見えるのにしっかりした子だ

 さすがレイ兄の助手なだけある


「ミトは回復魔法が使えるから、アシュの治療も手伝ってくれてるんだ」

「ありがとう」

「いえいえ、お役に立てて良かったです」


 回復魔法と言えば人族の種族スキルだ

 一生発現しない人が大半なのに、この年齢でスキルが発現しているのは珍しい


 その後、俺が目を覚ましたことを聞きつけたギルドマスターのハンツが謝罪と事情聴取をしに病室にやってきた

 初心者狩りのパーティに襲撃された話や謎の薬品について相談した

 俺が気を失った後の話も教えてくれた


「ミリアさんに話を聞いた後に戦闘があった場所を調べましたが、

 それらしい人は見当たりませんでした」

「死体も残っていないのはまだ生きていて自力で逃げたか、マッドトードに捕食されたか、 あるいは薬品を製造した組織が回収したか・・・・」

「人を化け物に変える薬品となると、かなり厄介な代物ですね」


 ハンツとレイ兄が2人そろって首をかしげる

 知見の広そうな2人が知らないとなると、かなり極秘裏に作られているものだろう


「その薬品って魔物にも使えるんですかね?」

「っ!もしかして今回のキングトード騒動は意図的に起こされたもの・・・・?」

「魔物を上位種に進化させる薬品・・・・

 人への効果は本来の目的とは違うものと考えた方が辻褄が合うね」

「これだけ大々的な騒動を起こしたとなると薬品の検証も最終段階でしょうね」

「裏には相当大きな組織が関わっているな・・・・」

「ギルドの上層部には緊急案件として連絡しておきます」

「僕も伝手をたどって情報を集めてみます」


 話しが一段落したところで忘れてたとばかりにハンツが何かを取り出した


「こちらお預かりしていたギルドカードになります」


 ハンツが取り出したのは俺とミリアのギルドカードだった

 預けてたっけ?


「勝手ながらミリアさんにお願いして預かってました」


 俺の考えを読み取ったようにハンツが答えた

 ベッド脇の机に置かれたカードに大きな文字でCと書いてある


「今回の騒動の活躍がギルド本部に認められCランク昇格となりました!

 おめでとうございます!」

「2人ともおめでとう!」


 ハンツ、レイ兄、ミトが笑顔で祝福してくれる


「ミリアさんがラージトードを上級魔法で討伐したことは多くの冒険者も認識しており、Bランク相当の討伐ランクだったこと、緊急度の高い状況だったことを踏まえて、お2人ともCランク昇格となりました

 例の薬品についてはこれから調査が入るため、残念ながらアシュさんの活躍については現段階では評価できないというのが本部の回答でしたが、現場指揮官の権力を使ってねじ込んでおきました」


 つまり、Cランク昇格はミリアの功績ということだ

 ハンツよ、それを俺に伝える必要はあったか?

 おめでとうでいいじゃん


 とは口に出さず、結果的にCランクになったから良しとする


「ありがとうございます!」


 一通り用が済んだハンツは、それではと言って部屋を出ていった

 例の薬品のことで今後忙しくなるそうだ、がんばれ


 そしてレイ兄に会いたかったもう1つの目的も聞いておく


「レイ兄、師匠がどこにいるか知ってる?」

「師匠ねぇ・・・・僕も探してはいるんだけど有益な情報は今のところないね」


 商人のレイ兄すら知らないか・・・・

 簡単に見つかるとは思ってなかったけどなかなか道は険しそうだ


「他の兄弟弟子なら何か知ってるかもしれないし、居場所がわかってる弟子たちのメモを後で渡すよ」

「わかった、ありがとう」


 今後は他の兄弟弟子たちに会って情報収集かな

 具体的なことはレイ兄のメモを見てから考えよう


「今後についてなんだけど、商売の拠点にしているエルマという街に戻ろうかと思うんだけど一緒に来るかい?

 ダンジョン都市とも呼ばれていて近くのダンジョンで発見された珍しいものがたくさんあるよ」

「ダンジョン!」


 師匠からダンジョンの話は聞いたことがある

 ダンジョンから見つかるもので最も有名なのはマジックアイテムだ

 魔法が使えない人でも魔法が使えるようになったり、魔法には存在しないような効果を持ったアイテムがあるという


 ぜひ欲しい!

 魔法が使えないとわかったときどれだけ悔しかったことか・・・・!

 マジックアイテムさえあれば俺も魔法が使える!


「ミリア!行こう!」

「・・・・うん!」

「よし!そしたらアシュの身体が治ったら出発しよう

 ミト、宿の手配をしといてくれるかい」

「わかりました」


 数日後、俺の身体が完治してからダンジョン都市へと向かった


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