後宮

 帝達が迎えに来ることを知らない蓮の君は、呑気に花を眺めていました。

「まあ、綺麗な花。何という花なのでしょう」

そんな蓮の君を、遠くから見ている女官や女御達。

「あの娘、一体何方どちらの家の者かしら」

「侍女も居ないわ」

「まさか、庶民ではありませんこと?」

「嗚呼、だ。私、あのような女とは関わりたくないわ」

ひそひそと蓮の君について話す女御達に、その侍女や女官達は頷いていました。

ふと、女御の誰かが此方に向かう帝に気付いたらしく、驚きながら言いました。

「帝よ、帝が居らっしゃるわ!」

「帝が迎えに来るだなんて…何処の貴族の方なのかしらねぇ?」

そんなことを話している女御達に、帝は睨むように視線を向けましたところ、女御達は一斉にその場を立ち去ってしまいました。

「姫様!」

「丹、貴女、何処に居たの?」

「兄上の所に…」

「兄上?」

きょとん、としている蓮の君に、帝は声を掛けられました。

「蓮の君」

「はい。…貴方は?」

何方様、と言いたげな蓮の君に、帝は丹を御自身の元に呼び寄せ、こう仰いました。

「私は此の者の兄であり、父でもある。名は一条頼宣だ。よろしく頼むぞ、蓮の君」

「一条…まさか、帝であられますか?」

顔を青く染め、蓮の君は震えた声で帝に聞かれました。

そうです、一条は、皇族にしか名乗ることを許されない姓なのです。

「そうだが」

さらりと頷かれた帝に、蓮の君は何かに気付いたらしく、丹の方を向かれました。

「丹…まさか、貴女も……?」

「私ですか?」

きょと…としている丹。

「私は、その…先帝の落胤でありますので……」

「でも、帝が貴女の兄だと名乗ったわ。つまり、貴女も帝と同じ皇族になるのよ」

「そうなのですか?」

「先帝の姫君、蓮の君に名を頂いたのかい?」

「はい、六条の兄上」

「ふむ…何という名なのかな?」

藤友様は、扇で口元を隠しながら丹に聞きました。

「丹に御座います」

「ほう、丹か…うん、貴女に相応しい名だね。丹色が好きなことを見抜いてしまうだなんて……蓮の君、流石ですね」

「い、いえ…ふと頭に浮かんだ名が、丹でしたので…」

端正な顔立ちの藤友様に微笑まれ、蓮の君は頬を赤く染め、名付けの理由を説明されました。

「…藤友。私も蓮の君と話がしたい」

「おや、兄上。私に嫉妬なさったのですか?」

「なっ…!?ち、ちがっ…」

藤友様に揶揄からかわれ、帝は顔を真っ赤にして否定をされました。

「兄上、顔が真っ赤ですよ?」

体調が悪いのですか、と帝を心配する丹に帝は、大丈夫だ…と蚊の鳴くような声で返されました。

「あの…」

「……蓮の君。明日の夜、其方そなたの部屋に向かう」

「え」

準備をしておくように、と言い、帝は昼御座へと戻られました。

「あっ!お待ちください、兄上!」

その後を追うように、藤友様は走り去ってしまいました。

「姫様。姫様がこれから住まわれる殿舎に向かいましょう」

「何という殿舎なの?」

「飛香舎です」

此方ですよ、と案内を始めた丹。

蓮の君は、その後ろを着いて行かれました。

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