さて、一刻が経った頃でしょうか。蓮の君が乗って居られる手車が後宮へと入りました。

車が止まり、蓮の君は車を降りられました。

「姫様、此方にお進みください」

「えぇ」

蓮の君は丹に案内されながら、帝の元へと向かわれました。


 「御上。蓮の君が到着されました」

その頃の帝は、家臣の報告を受けておりました。

家臣と言えども、帝の異母兄弟であり、御友人でもあられる六条藤友様は、上の空で居られる帝を咎めるように言いました。

「…はあ。兄上、しっかりしてください。貴方が蓮の君を呼んだのでしょう?」

やれやれ、と言わんばかりに肩を竦める藤友様。

「……うるさいぞ、藤友」

む、と頬を膨らます帝。

「兄上。貴方が帝命を出してまで蓮の君を呼んだのです。蓮の君を守り通してくださいね?」

「……分かっている」

ふん、と外方そっぽを向いてしまう帝に、藤友様は深く溜息を吐きました。

そう、帝が住まわれる後宮は、后妃達の住まう場所でもあるのです。

帝の寵愛を喉から手が出る程に欲している姫君が何人も住まわれている後宮。

其処に帝が直々に呼び出した蓮の君が入内をされたら、きっと、他の姫君達は蓮の君を妬み、羨むことでしょう。

それを危惧された藤友様は、とても優しい御方に御座います。

「失礼します、兄上」

帝と藤友様の居られる昼御座に、丹が来ました。

「…おや、先帝の姫君。ということは…蓮の君が到着したのですね」

「六条の兄上」

藤友様に気付いた丹は、慌てて床に手を着けました。

「失礼お許しください、六条の兄上」

「そんな謝らなくても良いのだよ?」

「しかし…」

「蓮の君を迎えに行くぞ」

「えっ」

「え?」

突然何を言い出すのだ、と目を丸くする丹。

「兄上、いきなりどうしたのですか」

藤友様が丹の代わりに帝に聞くと、帝は「蓮の君を迎えに行く」と仰いました。

「いやいや、兄上。そんな急に…蓮の君も驚いてしまいますよ?」

「構わん。さっさと準備をしろ、藤友」

「私もですか!?」

えぇ…?と少し帝に引いている藤友様でしたが、渋々帝の後ろを着いて行かれました。

丹は何が何だか分かっていないらしく、立ち尽くしていました。が、蓮の君を思い出し、慌てた様子で昼御座を出て行きました。

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