第5話 届かない場所で君と歩く

「じゃあ、俺が外を歩く。お前は屋敷から出られないんだろ?」





悠真がスマホを持ち上げる。

ビデオ通話の画面には、ふてくされた顔の蓮が映っていた。


「……仕方ないじゃん。出ようとしたら、なんか力が抜けて、溶けそうになるんだよ」


「それでも外に出たいって思うくらい、真相が気になるんだろ?」


蓮は少し黙ってから、こくりと頷いた。


「──ありがとう」



画面越しに見える街並み。

懐かしいような、それでいてまったく知らないような景色。


悠真は、蓮の記憶に引っかかっていた旧校舎へと足を運ぶ。


「この階段……たしか、透真と登った……。あのとき、落ちたのも、ここだった……かも」


蓮がつぶやいた瞬間だった。


「おい悠真。階段の下、なにかある」


「ん?」


懐中電灯を向けたその先。

埃だらけの床に、くっきりと浮かぶ大きな手形。


しかも──ついたばかりのように生々しい。


「……気のせい、じゃないよな」


悠真がそうつぶやいたとき、画面が突然、砂嵐のようにノイズを走らせた。


「……悠真?」


返事がない。

代わりに、通話のスピーカー越しに「ゴトッ」と何かが倒れる音が響く。


「悠真!なにが──悠真ッ!!」


画面の中で、なにかがうごめいていた。

白くぼやけた影──それが悠真の背後から、じわりと迫っていく。


蓮は、思わず立ち上がった。


「ダメだ……!俺、行けない……行きたいのに……!」


心臓が締めつけられる。

幽霊に“心臓”なんてないはずなのに、苦しい。


「……俺の声が届くなら、逃げろ、悠真……っ。お願いだから、生きて──」


スマホは沈黙したままだった。


だが次の瞬間。

画面の奥、誰の手にも触れられていないカメラが、わずかに動いた。


その先にいたのは──白い手で、悠真の腕を引こうとする“何か”。


蓮の叫びは、もう届いていなかった。

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