第4話 お前の過去に触れてはいけない
「……やっと帰った」
陽翔が去って数分後。
蓮は居間の床にぺたりと座って、むすっとした顔で俺をにらんでいた。
「なに、その顔」
「別に?モテモテの悠真様に嫉妬するようなちっっさい男じゃありませんけど?」
「わざわざ強調するあたり、ちっさいどころか豆粒レベルだけどな」
「呪うぞ」
口では文句を言いながらも、少し寂しそうに目を伏せる蓮。
「でもさ、お前、いつからこの屋敷にいたんだ?」
ふと俺が聞いた質問に、蓮が一瞬、動きを止める。
「……たしか、目が覚めたらこの屋敷だった。ずっと一人だった。最初は名前も覚えてなかったんだ」
押し入れの中の古い手帳、前に見た高校時代の写真──
あれを見た時から、何かが蓮の中で揺れ動いている。
「……“あいつ”が……いた気がする。男だった。俺に、笑ってほしいって、ずっと……」
蓮がぽつぽつと語る記憶の断片。
それは、ほんのわずかに残った“生きていた頃の感情”。
その夜、俺は屋敷の奥でふと一枚の写真を見つける。
蓮と並んで写っていた──あの少年だけが、名前付きで写っていた。
「柊 透真(ひいらぎ とうま)」
「……この名前、聞いたことあるか?」
「……とうま……?…………あ……」
蓮の肩が震える。目を覆う手が、強く強く震える。
「そっか。俺、あいつと──ここで──」
言いかけて、蓮は言葉を飲んだ。
記憶が戻るたびに、きっと“痛み”も一緒に蘇るんだ。
「思い出したくないなら無理に思い出さなくていい。けど──お前が忘れたくないなら、俺は一緒に思い出す」
ゆっくりと俺の腕の中に収まる蓮。
その体温は、幽霊のものとは思えないほど、あたたかかった。
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