第8話 本能的で無意識の暴力

ウィーン。

ウィーン。


静寂に響く無機質な自動精算機。

お札を1枚ずつ入れ、その足取りは重く感じた。


私はスマホの動画を構えた。

会話も全部記録しておこう。


さあ、何と言ってどんな態度で出てくるのか。


ガチャ…


本当に夫が出てきた。

一人だった。


何と言って女性と打ち合わせして出てきたのか分からないけど

一生懸命考えて何か策を2人で練ってきたのだろう。


まず夫がとった行動。

ドアから出るなり私を掴み、すぐ横の急な階段から突き落とそうとした。


私は踏ん張ることができ、なんとか落とされずに済んだ。

落とされてたまるか、負けてたまるかと思った。

私が今まで耐えてきた苦しみ、ここで死んでたまるか。


その掴み合いが約10秒。全て動画に収めた。

今思い返せばこの時警察を呼べばよかったと思う。


私も興奮状態。もっとこの行動を問いただすべきなのに、何が何でも身元の分かるものを出させるという頭しかなかった。


そして我に返ったかのように

「何?」

と、キョトンとした顔で言い出すので、先ほどの行動は本能的に無意識に手が出たんだと分かった。

敵と認識したもの、自分の道を邪魔するものは殺そうとする動物と同じように。


瞬きも多く視点も定まらない。口は半開きで体が揺れている。

【やばい】と思ってるのは間違いなさそう。


「中の女性と話をさせて。」


私はとにかく女性の身元を探らなければと思った。


「それはできないのでとりあえず降りて」


夫が返す。

おかしな挙動は変わらない。


このラリーがずっと続く。

お互い譲らない。

夫は女性を守ろうとしている。


ついに夫が次の一手に出る。


「分かった。話をさせるから、とりあえず一旦降りて。」


私は従い降りた。


その間も動画は撮り続けている。





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