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 この喫茶店には他にもお客さんや店員さんがいて。


 きっと、クリスマスソングもかかっていたはずなんだけど、わたしには無音の空間に思えた。


 早月くんも、わたしのことが……好き?




「実はさ、五歳の時からずっと、美奈ちゃんのこと好きやってん。日本に残ることにしたんも、美奈ちゃん目当て。そのうち言おう、言おう、って思ってたんやけど……タイミングわからんくて」


「嘘っ、そうだったの?」




 つまり、早月くんが宿泊合宿の時に言っていた「好きな人」って……わたし?




「ほんまやで。俺からも言わせて。美奈ちゃんのことが好き。俺の彼女になって」




 つうっ、と一筋の涙がこぼれてしまった。




「わわっ、美奈ちゃん!」


「ご、ごめんね、嬉しいの。でも、嬉しすぎて、夢みたいで、わけわかんなくて……」


「えっと……付き合ってくれるってことで、ええんやんね?」


「うん……喜んで」




 こうして、わたしたちは彼氏と彼女になった。


 喫茶店を出ると、早月くんが言った。




「なあ、お揃いのもん買わへん? 俺らの小遣いやと、買えるもん限られるけど……」


「いいね。そうしよう」




 わたしたちが選んだのは、銀色の星のキーホルダーだった。まるで、二人で見たツリーのような。


 これなら、通学のリュックサックにつけられる。


 帰りの電車に乗る頃には、夕飯近くになっていて、お母さんからいつ帰ってくるのかメッセージがきていた。


 わたしと早月くんは、座席に並んで座り、電車に揺られていた。




「早月くん、帰ったらすぐ夕飯みたい。きっとクリスマスメニューだよ」


「楽しみやなぁ。叔父さんと叔母さんには、付き合ったことまだ内緒にしとこか」


「そうだね。うるさそうだし」


「でもな、美奈ちゃん。知っとった? いとこ同士は結婚できるって」


「……うん」


「俺さ。これからずっと、美奈ちゃんのこと大事にする。そんで、大人になったら。親せきとかにも認めてもらって。そんで、結婚しよう」


「……うん!」




 どうしよう。ふわふわした気持ちが収まらない。


 すっかり日が落ちた住宅街を手を繋いで歩く。


 帰ったら、いつも通りにしないといけないのに。


 わたしったら、早月くんの手の温もりのことばかり考えている。


 もうすぐで、家の明かりが見えてくるという時になって、早月くんが足を止めた。




「……あのさ、美奈ちゃん。帰ったら、できひんから。今、していい?」


「な、何を?」


「……キス」




 そ、そんなのされたら、心臓が爆発しちゃうよ!


 でも、早月くんの声色はとても真剣だ。


 せっかくの付き合った記念日なんだし……。


 少し考えて、わたしはこう言った。




「ほっぺなら、いいよ」


「……んっ」




 右の頬に、軽く触れるだけのキス。


 それだけで、わたしは舞い上がってしまった。




「早月くん。好き。大好きだよ!」


「俺も好きやで。これからも、よろしくなぁ!」




fin

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いとこの早月くんは関西弁で本音を言う 惣山沙樹 @saki-souyama

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