22

 江東先輩の恋愛のことを考えながら家に帰ると、早月くんがリビングのソファに座っていた。




「おかえり美奈ちゃん。何か飲む?」


「そうだなぁ……コーヒー、また挑戦してみる」


「ええで。作ったるわ」




 コーヒーが飲めたくらいで大人になんてなれないはずだけど、あんな話を聞いてしまった後では背伸びもしたくなった。




「んんっ……やっぱり苦いっ!」


「俺、ミルクなしでもいけるようになってきた」


「早月くん、どんどん先を行くなぁ……」




 お父さんとお母さんが帰ってくるまでの、二人だけの時間。


 きっと、早月くんにとってはいつものことだろうけど。


 学校では近寄れない分、わたしにとっては特別なんだけど、そんなの恥ずかしくて言えるわけがない。


 わたしは真凛から聞いて知っていた。


 早月くんが、何人もの女の子に告白されているということ。その全てを断っているということ。


 それはやっぱり、校外合宿の時に言っていた「好きな人」がいるからなんだろう。




「ん? 美奈ちゃんどうしたん? なんや難しい顔しとうけど」


「あっ、何でもないよ。夏休みのこととか考えて、ぼおっとしてただけ」




 真凛くらいの勢いがあれば、恋愛の話題に持って行くことができたかもしれない。


 けれど、ひょっこり江東先輩のことを言ってしまうかもしれないし……。


 やっぱりわたしは慎重でいよう。




「早月くんは読書感想文の本決めた?」


「まだ。課題図書、どれも面白そうやなぁって思って。全部読んだろうかな」


「ええっ、全部? さすが読書好き」


「オススメを美奈ちゃんに教えるんとかええかも」


「あっ、それ助かる」




 そんな話をしていたら、先にお母さんが、少ししてお父さんが帰ってきたから、夕食の準備を手伝うことになった。


 夕食中、お父さんが言った。




「今年はお父さんもお母さんもまとまった休みが取れそうにないんだ。旅行はナシだなぁ」


「そっかぁ」




 夏休みは家族三人で泊まりがけの旅行をするのが恒例になっていた。


 今年はできないなんて、残念。


 行くんだったら早月くんも一緒だよね、とどこかで期待していたのに。


 お母さんが言った。




「その代わり、二人には夏休み分の特別お小遣いをあげるから。友達と楽しんでいらっしゃい。でも、行き先は必ず言ってから、遅くなるようなら連絡。これは守ること。いい?」


「はい叔母さん。わかりました」



「ちゃんと守ります」




 いよいよくる。中学生初めての夏休みが。


 小学生の時とは違う。何か、特別なことが起こりそうな、そんな予感がした。

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