23

 夏休みがやってきた。


 まず取り掛かったのは、宿題の山、山、山!


 中学生ってこんなに宿題があるんだ。知らなかった。


 いつも学校に行くのと同じ時間に起きて、午前中から集中することにした。


 昼食は、お母さんが毎日作り置きしてくれていて、それを早月くんと一緒に食べるのが息抜きになっていた。




「早月くん、今日は焼きそばだよ」


「やったぁ! 叔母さんの焼きそば好きやねん。肉ようさん入っとうから」


「ようさん?」


「たくさん、っていう意味」




 早月くんの関西弁は、時々わからないことがある。


 でも、その意味を聞くのが楽しみだったりする。


 わたしはラップのかかった焼きそばのお皿を電子レンジに入れて温めた。


 お皿が大きいから、一つずつしか入らない。




「美奈ちゃん、先に食べや。俺食うの早いし」


「そう? じゃあ先に頂くね」




 食べながら、話していたのは英語の宿題についてだった。英語の会話文を作らないといけないのだ。




「早月くん、英語が進まないよぉ……」


「俺が作ったやつ見せたろか?」


「それはズルだからやめとく」


「美奈ちゃんは真面目やなぁ。ええとこやと思うよ」




 食後のお皿洗いとテーブル拭きは二人で分担。


 食洗器の使い方は教わったから大丈夫だ。


 午後もとにかく宿題。苦手なものを先に終わらせてしまいたいから、英語にした。


 時々、麦茶を飲みにキッチンに行く以外は、スマホも見ないで机に向かった。


 昼の三時頃。扉がノックされた。




「はぁい?」


「なぁ美奈ちゃん、コンビニでも行かへん? 散歩と気晴らし」


「いいね。行こうか」




 コンビニまではそこそこ歩く。わたしの足で十五分くらいだ。


 だから、日焼け止めを塗って、つばの広い帽子をかぶった。




「早月くんお待たせ。行こうか」


「おう!」




 玄関を出た途端、蝉の大合唱が聞こえてきた。


 お父さんが子供の頃は、まだ日本もまだそんなに暑くなくて、夏休みといえば虫取りに出かけたのだとか。


 今のわたしには想像もできない。こんな太陽ギラギラの中、コンビニに行くので精一杯だ。


 早月くんが言った。




「俺さぁ、コンビニのスムージー飲みたいねん。自分で機械にセットして作るやつ」


「いいね、それにしよう」




 歩いている途中で、あることに気付いた。


 早月くんと二人きりで外出って、これが初めてじゃないかな……?


 でも、いとこ同士でコンビニに行くだけだし。


 これはデートじゃない。


 そんなに意識するようなことじゃないって、その時は思っていたんだ。

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