21

 生徒会の仕事はひと段落。二学期になって、文化祭の前になればまた忙しくなるみたい。


 だから夏休み前のこの時期は、必要な作業がある人だけが生徒会室に集まるようになった。


 わたしはパソコンをもっと覚えたいと思っていたから、江東先輩の手伝いをすることにした。




「江東先輩、古いフォルダの整理、できました」


「おっ、ありがとう!」




 その日は気付けばわたしと江東先輩、二人きり。


 どの生徒もみんな、きっと夏休みを前に浮かれた会話をしていることだろう。


 けれど、その時わたしたちがしたのは真剣な話だった。




「美奈ちゃんって、好きな人いる?」


「えっ……どうしたんですか、いきなり」


「どうなのかなぁって思って。中学生活も三ヶ月経って、すっかり慣れた頃じゃない?」


「そうですねぇ……」




 わたしは考え込んだ。「好き」っていうのはどういう意味なのだろう。真凛だって生徒会のメンバーだって全員「好き」だけど。


 きっと江東先輩が言っているのは違う。これは、「恋愛」の話だ。




「まだ、よく、わかんないです……」


「あはは。困らせちゃったか。ごめんごめん」


「江東先輩にはいるんですか、好きな人」




 すると、江東先輩は短い黒髪をかきあげて不敵に笑った。




「うん。いるよ。一年前くらいからずっと好き」


「おおっ……!」




 わたしはつい、前のめりになってしまった。江東先輩は言った。




「でもね、気持ちは伝えない。その人には、私の他に好きな人がいるって知ってるから」


「そう、ですか……」


「一緒にいられるだけでいいんだ。それだけでも楽しいから」




 その時、最終下校のチャイムが鳴った。帰らなければならない。




「はー、スッキリした。美奈ちゃんに話せて。このこと、誰にも内緒ね?」


「はい、わかりました!」




 手早く片付けをして、生徒会室を後にした。


 帰り道では、江東先輩のことばかり考えていた。


 もし真凛なら、誰のことが好きなのか突っ込んで聞いていたかもしれない。


 わたしはそこまではしない。興味がないのではなく、誰だか知ってしまうのがこわいのだ。


 一年前から、ということは、早月くんは候補から外れる。


 としたら、思い当たるのはあの人だけど……ううん、これ以上の詮索はやめよう。


 それにしても、凄いな。気持ちを伝えない、っていう恋愛の方法もあるんだ。


 江東先輩はわたしより一つしか年が変わらないのに、ずいぶんと大人に思えた。


 そして、自分の好きな人が、自分じゃない人が好きなんだと知ってしまったとき。


 わたしなら、どんな行動に出るだろう、と考えると止まらなかった。

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