第75話 第2号(1969年12月) あとがき

 あ と が き


 相変わらず激動の1年であった。ベトナム戦争、学園紛争、誘拐や交通事故の増大。なかでも学園紛争は身近な問題として私たちの心を痛める。私の小説を読んだ各地の学生から学園紛争についての意見をよく求められるが、そんなとき私の鏡となり道標となるのは「戦争と平和」に対するヘッセの模範的態度である。私は次のような返事を書く。「第一次大戦の勃発寸前に兇弾に倒れたジャン・ジューレスの<真の勇気とは、理性で解決できる騒乱の解決を暴力の手に委ねないことだ。>という言葉がいまほど強く私の心に響くことはありません。自分の主観的正義のためにはどんな手段も許されるというのであれば、アメリカのベトナム介入もソ連のチェッコ侵入も正当化されるということになりましょう。……」来年は安保改定の年、紛争はますます激化し、暴力は爆発するであろう。新しい社会が生まれるための長い悲惨な胎動。一日も早く解決して平和な新生が迎えられるようひたすら祈るばかりである。

「アメリカにおけるヘッセ」ーヘッセがアメリカで熱狂的歓迎を受けているというニュースは、私たちには特にうれしい一大事件といわなければならない。やがて私たちの仲間が全世界に拡がる日も遠くあるまい。

 「消息」にも書いたが、広島の滝沢寿一氏、徳島の藤井正人がそれぞれ欧州旅行、西独ヘッセ遺跡巡礼を断行されたことは、本人はもとより当協会にとっても大きな収穫であった。

 なお、小生所蔵のヘッセ資料の整理保管のため自宅の一隅に小規模なヘッセ館を設けたので、未公開ではあるが、希望者には予告のありしだいお見せすることにしている。

 やがて今年も暮れようとしている。来年はますます会員相互の親睦と結束を深め、協会を発展させたいものである。よき新年を祈って。   (四反田)


・・・・・・・ ・・・・・ ・


 これは本作品群第66話においても引用しています。


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