カモフラ配信編
第6話 要するにヤラセってわけだ
「それでは、会議を始めます。みなさん、張り切っていきましょう」
神を名乗る人物から投げブツの停止処分を受けた数日後。
ライネの提案により、屋敷の一室で会議を行うこととなった。
参加者は私とライネ、リヴの他にルビージア家に仕える近所のネクロマンサーが七人。
彼らネクロマンサーは正装での参加ということで各々が色の違うフードを目深に被っており、顔を伺うことが出来ない。
隣で粛々と挨拶を述べるライネへ向け、私は背後に立つリヴに聞かれないよう小さな声で尋ねた。
「呼ばれるままついてきちゃったけど、この集まりは何?」
「健全なストリムの使用を心がけるよう言われましたので、わたしたちが真面目に取り組んでいる様子でも映してみようかと。当主に許可を頂いて、ご実家からダンジョン関係の仕事をいくつか回してもらったんです」
「要するにヤラセってわけだ」
試みの意図は分かった。
実家の力に頼るのは気が進まないけど、今の私にそんな意地を張っている余裕はないし、素直に受け入れよう。
投げブツ機能が復活するまで、少しの間、我慢我慢。
「それにしても、会議の様子なんて内容として硬すぎない?」
「安心してください。リヴの表情を見て、あまりにも退屈そうなら、いつでもネタに走る準備はできています」
「それは、絶対にやめてね」
そんなことしたら、絶対すべるに決まっている。
ライネは小さく咳払いすると、胸を張って前を見据えた。
「さて、今回の議題は『新規開業予定のダンジョンに配置するアンデッドについて』です。古城を改装してダンジョンを造るうえで、メインの大広間に配置するアンデッドを考えてもらいたいんだとか」
「へえ、また新しいダンジョン作るんだ」
ピリッと引き締まった空気をよそに、頬杖をつきながら緊張感のない声を漏らす私。
相変わらずの景気の良さに、身内ながら感嘆するばかりである
「ルビージア家はネクロマンサー随一の名家ですから。……戻るつもりなら、早めの方がいいですよ?」
「それは、ありえない。高級ステーキを食べられるからって、アンデッドが配膳してくる環境になんか、頼まれても戻ってやんないよ」
ダンジョンをはじめ、外仕事でアンデッドを使役する分には構わない。
けど、家事など内側の仕事を手伝わせるというのは個人的に絶対ナシ。不衛生極まりない。
「それにしても、ダンジョンに配置するアンデッドかあ……。私、こういうの考えるセンスないんだけど、大丈夫かな」
「エスタが率先して意見を出す必要はありませんよ。今日の会議に向け、あらかじめ各々に案を考えてきてもらってますから。今から参加者が順番にプレゼンしていくので、何か思う部分があれば感想を聞かせてください」
「あっ、そう。今日の私の立ち位置はそういう感じね。了解」
最悪、座っているだけの置物でもなんとかなる感じかな。
私が深く息を吐いて背もたれに身体を預けると、赤いフードのネクロマンサー……通称、赤ネクロさんが、すっと手を挙げた。
「僕の提案は貴婦人のゾンビです」
「貴婦人のゾンビ?」
「女性ゾンビをドレスで着飾らせて古城の大広間にたくさん配置すれば、ダンジョンを不気味な舞踏会っぽく演出できると思うんです」
「いいね、面白そう。ただ、ドレスを揃えるっていうのは予算的に厳しいかもよ?」
「エスタ様の食費を、今の半分まで減らしても厳しいですか?」
「かしこまってる風な言い回しで、ドギツイこと言うのやめてくれない? 食費を半分って、たいがいだよ?」
どこまで本気なのか分からない提案はさておき、やはり予算の問題は無視できない。
このご時世、道端に死体がゴロゴロ転がっているなんてことあるはずもなく。
ゾンビを並べるとなると、専門業者にそれなりの金額を払って、死体を仕入れるところから始めなければならない。
それらに専用の服を用意するとなると、さらに衣装代もかかってくる。
口を閉ざす赤ネクロさんと入れ替わるように、青ネクロさんが大きく手を挙げた。
「俺の提案は兵士のゾンビです。かつての主人を想い、死してなお多くの兵士が城を守っている……みたいなシチュエーションで」
「兵士のゾンビって結局、衣装代がかかるんじゃないの?」
「そこは、ご安心を。建設予定地の周りは、かつての戦場です。打ち捨てられた鎧で溢れかえってますから、拾い集めれば衣装代は実質タダです」
「悪くない案だとは思うけど、鎧を着て歩けるゾンビとなると、それなりにガタイのいい個体を揃えなきゃいけないのがね……。死体の選別の手間を考えたら、結局、予算オーバーかも」
「エスタ様の食費を今の三分の一まで減らしても無理ですか?」
「私の食費を補填に充てるの流行ってるの? 言っておくけど、私そんなに贅沢してないからね? 三分の一まで減らしたとて、大したお金は浮かないよ」
あしらうような口調で告げると、青ネクロさんは微かに唇を尖らせた。
別に私は毎日、トリュフやキャビアばかり食べているわけではない。
にも関わらず、半分だの三分の一だの、それじゃあ餓死しろと言っているようなものである。
みんなして、まるで「働かざる者食うべからず」とでも言いたげな……なんか、ちょっぴり凹む。
とはいえ、意見も出さないのに予算がどうのと文句ばかり言い続けては、不満を抱かれても仕方ないというもの。
私は頬を掻きながら、ライネに視線を向けた。
「えーと……ライネは側近として何か意見ある?」
「そうですね。やはり根本的な問題として、オシャレ感を衣装でどうにかしようという考えに無理があるような気がします」
「じゃあ、オーソドックスに朽ちた布でも巻かせる? せっかくの古城の雰囲気が生かせない気はするけど」
「だったら、水着なんてどうでしょう? 大広間に水着のゾンビが溢れていたら、なんとなく盛り上がってる雰囲気ありませんか?」
両手を重ねて微笑むライネに、私は頬をほんのり赤く染める。
「それはちょっと……。なんか、いかがわしいパーティーみたいになっちゃうじゃん」
「おおっ、それですよ。いっそ『いかがわしいパーティー』をテーマにしちゃうんです。なんなら、仮面とかも着用させちゃいましょう」
「そういう冒険したテーマで成功してるダンジョンも、中にはあるけどさ」
テーマを「亡者たちのナイトパーティー」とかで濁せば、陽気な人々には案外ウケるかもしれない。
「街から離れた薄暗い古城で、亡者たちが短い夜を踊り明かすんです。あえて、場違いなミラーボールなんかも設置して異質な盛り上がりを演出したりとか」
「ウケるかもね。アダルト路線でね。……健全、どこいった?」
私とライネはパッと振り返って、リヴの顔色をうかがった。
彼は直立不動。怖いくらいの無表情で、私たち二人を見下ろしている。
ライネは椅子を倒しながら立ち上がると、他のネクロマンサーたちに向かって、挙動不審に手をバタつかせた。
「な、なんだか議論が煮詰まってきましたね! 雰囲気を変えるためにレクリエーション……大喜利でもやりますか! お題は『こんなダンジョンは嫌だ』です!」
「やめてやめて! ネタに走らないで!」
ここで失敗したら、きっと戻れなくなる。
私はライネの肩を掴んで無理矢理、席に着かせると耳元でそっと囁いた。
「とにかく、私はリヴを連れて外に出るから。後のことは任せたよ」
一連の流れ、コンプライアンス的にはグレーゾーンと思われる。
まだ、ギリギリセーフ……だよね?
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