第6話 善財童子・紅孩児・那托

僕は善財童子です。

これは玄奘三蔵が弟子になった時に与えた名前です。

僕この名前を誇りに思っています。

そう名乗る前は妖怪でした。

「那托」とも呼ばれ「紅孩児」とも呼ばれました。

僕はその伝承にまつわる能力をほぼ保有しています。

乾坤圏(円環状の投擲武器)や混天綾(魔力を秘めた布)

火尖鎗(火を放つ槍)などの武器を持ち、風火二輪

(二個の車輪の形をした乗り物。火と風を放ちながら空を飛ぶ)

を操ります。

純然たる戦力では兄弟子の孫悟空に引けを取りません。

しかしインドに入る直前に僕は負け、三蔵法師様から許され

弟子になりました。

インドに近いヒマラヤに住んでいたために現地では通訳になり

重宝されました。厳しい修行に耐え漢文も読めるようになりました。

その幼い容姿の外見のために可愛がられましたが内心は軽くみられる

事をよく思ってはいません。


東屋に泊まりました。

ちょっとした酒盛りになります。酒の席で自慢話になりました。

「俺は牛魔王の子供なんだぞ!」

誰かが「弱肉強食」「清廉潔白」「画竜点睛」

「天上天下唯我独尊」「れんこんとうしょう?」と言ってた。


「起きよ那托!いや紅孩児というべきか?」

「誰だオイラの名を呼ぶやつは!おいらは善財童子だい!」

「そんなことはどっちでもいい。よいか我は天界の使者、大日如来の権現なり」

「そんなこと信じられるかよ!!おいらの頭の中から出ていけ!」

「善財よ、お主は長安に着いてどうする?孫悟空は三蔵の一番のお気に入り。

そのまま弟子として残るか華崋山の王に戻るだろう。天蓬元帥と捲簾大将は

元々は天界の官吏、その職に戻ることを期待されておる。西海竜王は竜宮の

王族、その任を解かれれば故郷に戻るだろう。だがお前はどうだ?

卑しい妖怪の出、悪辣非道の牛魔王の子供と知れれば師匠の玄奘まで類が及ぶ

こと間違いなし!」

「うるさい、うるさい、お師匠はそこらへんのことは考えてくださるわ!」

「どうかな?近頃の長安は仏法の乱れ甚だしく、天下は麻布のように乱れておる。

三蔵はよくても長安の人間は誰もお前を赦しはしまい。三蔵も心を痛めるぞ…」

「そこでだ、我は提案する。沙悟浄の我を三蔵と思い込むのだ。

そして我に従え。案ずるな、三蔵と高弟達の命まではとらん。わが天帝に誓い

約束する」

「お師匠を裏切ることなんかできるかよ!」

「三蔵はもう現世にはいない。残念だがそうなのだ。万に一つの可能性はな

お前たちが三蔵の苦行を邪魔しないことだ。多くは語らんがこれは真実なのだ」

「それが本当ならおいらに何の得があるんだ?」

「お前は三蔵のために自分の身と名を捨てる気概があるか?

三蔵の覇業を続ける気概があるのか?

それが報酬といえば報酬だ。それとも天界に昇り兄弟子より高い地位を望むか

それもよかろう。」

「話はそれだけか?」

「それだけだ、この話の概要は忘れるが、命令は心に刻まれておる。

途中までは操り人形だが、最後の最後には自由意志をくれてやる。

これはなんだっけ、おまえらのいう、御仏の慈悲よ、では眠れ」



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