サラリーマンと月夜の蛍

綺麗な風景写真が撮りたい

第1話 明日からどうしよう・・・

 俺がこの会社に入社したころは、事務所は各自の机の上、製造現場は休憩所のテーブルの上に『灰皿』が必ず在って、そこで気兼ねなく『たばこ』が吸えたものだ。


 『たばこ』の不始末で書類に焦げをつくり、重要書類をダメにしてしまい、上司の雷も多々あったな~


 俺が歩くと凄く『たばこ』臭いらしく、仕事中に席の後ろを通っただけで、俺だと判るのだそうだ・・・


 ところが、臭い・煙たい・汚い・部屋が汚れる・掃除はいったい誰がすると思っているの?・肺がんや慢性閉塞性呼吸器疾患等病気の原因になる・ニコチン中毒・受動喫煙となり迷惑だ等々で、いつの間にか別室の『喫煙所』に行かないと『たばこ』が吸えなくなった。


 『喫煙所』に行けば喫煙仲間が大勢屯しているので、「あいつら何時も仕事をサボっている」って言われ、肩身が狭い思いをしていたが、依存症のニコチン中毒なんだから吸いたいものは吸いたい、周りに何と言われようとこればかりは仕方が無いと、身勝手だがそう思っている。


 それが『健康増進法』とかで、わが社でも数年前から屋内が原則禁煙となり、事務所の外、屋外に喫煙所が移されてしまった。


 雨が降ろうが風が吹こうが、『たばこ』は吸いたい、たぶん絶対に止められない、我慢が出来ないので、傘をさしてでも『たばこ』を吸いに行く。


 夜、真っ暗闇で三日月と星空が見える喫煙所は、『たばこ』の小さなオレンジ色の火が沢山集まっていて、まるで蛍が舞っているようだ・・・


 そしてその蛍のような火を目指して、集魚灯に吸い寄せられる魚のように、喫煙者たちが集まって来る。


 『健康経営銘柄』に選定されることを目指すとかで、社長の決断により、明日からは『敷地内全面禁煙』になるのだそうだ。


 ここに屯する喫煙者たちは、困惑しつつ「明日からどうしよう・・・」と口々に言いながらも、最後の至福の一服を満喫していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サラリーマンと月夜の蛍 綺麗な風景写真が撮りたい @ALICE1961

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ