第11話 お祭り

第11話 お祭り


その年の夏。

村では五年ぶりの大きな

お祭りが開かれることになった。


みんなが楽しみにしていたその中で、

ひとつの劇が、

村の子どもたちによって

披露されることになっていた。


主役は──


「……わたし?」


少女・ミユは目をまんまるくした。


おとなしくて、恥ずかしがり屋で、

人前で話すのが苦手。

そんな自分が、

村の劇の“姫役”に選ばれるなんて──

夢にも思っていなかった。


「無理だよ……わたしにはできない……」


彼女は稽古を休み、神社の裏で泣いていた。


すると、ふと木の上から声が降ってきた。


「それ、さっきから三度目の“できない”よ?」


「えっ……もふもふの神さま……!」


狐の神様・稲白が、

金色の尻尾をふわりと揺らしながら降りてきた。


「自信がないのはわかる。でも、“できない”って言うたびに、未来の自分が泣いてるの。

あんた、未来の自分を悲しませたいの?」


「でも……人前に立つなんて怖くて……」


ミユの手がふるえていた。


稲白はそっと、その手を包んで言った。


「いい? “こわい”って思えるのは、本気だからよ。

本気でやりたいって、心の奥ではちゃんと思ってるから」


「……そんなの、わたし、わからないよ……」


「なら、やってみなさい。“わからない”ままで、いいから一歩だけ出なさい。

背中は、わたしが押してあげるから」


そう言って、稲白は彼女の胸元に、

光る狐の羽根飾りを結んだ。


「《導きの羽根》。

緊張したら、このお守りを思い出しなさい。きっと笑えるわ」



---


そして、祭り当日。


舞台の幕が上がり、ミユの出番がきた。


最初の一歩は、ふるえていた。

でも──彼女の胸元で、あの羽根がきらりと光った。


(……稲白さま、見ててくれる)


そう思った瞬間、心のどこかで、ふわっと風が吹いた気がした。


台詞をひとつ。

そしてまたひとつ。

観客の目が優しく笑っているのが見えた。


気づけば、ミユは最後まで舞台に立ちきっていた。


幕が閉じたあと、拍手が鳴り響いた。



---


社の屋根の上で、それを見ていた稲白は、

にっこりと笑った。


「……やっぱり、“怖い”の先にある勇気って、美しいわね」


尻尾がふわりと揺れ、

夜空に小さなきらめきが舞った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『もふもふ狐神さまは、異世界転生で信仰なんてなくなったけど、無敵です!』 ベガさん @begasan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ