第31話 ユウの発作

「N」


消えない痛みがあるように

消せない記憶があるもので

僕らに残った Nの痕跡(あと)

まだ 胸の奥で揺れてる


限られた時間の中で

「今を生きる」ことの意味を

教えてくれたのは 君だった

あの日の声が 道しるべになる


これは終わりじゃない

きっと始まりなんだ

君が遺した あの笑顔のように

この道に 光を灯していくよ


ひとつの鼓動が 確かに響く

それは 「生きている」っていう証

痛みも 悔いも そのすべてが

今を刻む リズムになる


もう一度 朝を迎えるために

もう一度 歌えるように

ぼくは歩く 震える足でも

心だけは まっすぐ前へ


これは終わりじゃない

きっと始まりなんだ

涙も全部 未来へ繋げて

この空に 光を描いていくよ


作詞・作曲:ユウ

編曲:Rose Wings









————

曲が終わったその瞬間、ユウが小さく息を呑んだ。

次の瞬間、過呼吸が彼を襲った。


あの生パフォーマンスの時と同じだった。

崩れ落ちるようにその場に座り込むユウの姿が、焼きつくように胸に残る。


カイとレンが、すぐに駆け寄ってユウを支える。

慣れた手つきで背中をさすりながら、優しく声をかけていく。


何度目だろう、この発作は——。

ゆうかは、胸の内でそうつぶやきながら、ただ黙って立ち尽くしていた。


ユウの頬に、涙が一筋伝う。

一瞬だけ、ドアの方へ視線をやったように見えた。

「……ごめん。」

掠れた声が、ユウの唇から漏れる。


しばらくして、ようやく呼吸が落ち着いたユウは、ゆっくりとソファに腰を下ろした。

カイとレンも、左右に寄り添うように座る。


カイ「無理しないでいいよ。まだ時間はあるから。」


レン「そうそう。ユウのペースで進めよう。」


二人の手が、ユウの肩や背中にそっと触れる。

その温もりが、少しずつユウを現実に引き戻していく。

ユウはまた、ドアの方を見た。


ゆうかは、意を決したように口を開いた。


ゆうか「……このことは、記事には書きません。こんな緊張感の中で立ち会ってしまって……本当にごめんなさい。」


ユウ「ありがとうございます。……あはは、確かに、あんまり見せたくない姿だよね。でも……必要なら、どんな僕でも使ってください。」


マネージャー「何言ってるの。ファンを不安にさせるでしょう? はい、お水よ。」


ユウ「ありがとうございます。……そうだね。じゃあ、内密でお願いします。」


もう一度、ユウの視線がドアの方に向かう。

その様子に気づいたカイが、ふと思い出したように言った。


カイ「そういえば……今日、まみちゃんも来るって言ってたよね?」


ゆうか「あ、そうだった! さっき“もうすぐ着く”って連絡が来てたんだった……もしかしたら迷ってるのかも。ちょっと様子見てきます。」


ゆうかは立ち上がり、スタジオのドアへ向かう。


レン「さすが、カイ様だな〜。」


カイ「やめろって。……まあ、僕は全女子の味方だけどね。」


ユウ「ふふっ……」


その笑みに、二人はそっと胸を撫で下ろす。

少しずつ、いつものユウが戻ってきていた。


——廊下に出たゆうかは、息を呑んだ。

スタジオのすぐ外、ドアの横で、まみがしゃがみ込んでいた。


ゆうか「どうしたの? 大丈夫……?」


まみ「……ごめん。お腹、痛くて……帰るね。」


顔を上げることなく、まみはお腹を押さえて立ち上がり、足早にスタジオから離れていった。


彼女は、ドアのすりガラス越しに、ユウが崩れ落ちるのを見ていた。

——あの「N」の歌と、ユウの姿。

胸の奥に湧き上がった感情に、まみは押しつぶされそうになって、その場にうずくまってしまった。


そんな自分を、ゆうかに見られてしまったと気づいた瞬間、まみは反射的に踵を返していた——。

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