第30話 Nの制作
これは終わりじゃない
きっと始まりなんだ
君が遺した あの笑顔のように
この道に 光を灯していくよ
————
レコーディングスタジオの空気は、いつになく静かだった。
曲作りはユウを中心に、3人で作るというスタンスでいつも作っている。
カイとレンが、ユウのイメージに従い音を鳴らす。
そこからコードやメロディがユウの頭に降りてくるという。
だから、作曲者はユウだか、Rose wingsの収入は3等分らしい。
そのことについて、ユウが「俺1人では作れない。カイとレンが側にいてくれるから、曲ができる。そんなの当たり前だろう。」と話していた。
仮タイトルの「N」がホワイトボードに記され、その下には、何も書き足されていないままのコード進行表が置かれている。
誰も言葉に出さなかったが、「N」という文字が意味するものは、全員がわかっていた。
だからこそ、誰よりもユウ自身が慎重になっていた。
彼は、ペンを握ったまま、しばらく紙の上を見つめていた。
何度も書いては消し、また書いては破り、新しい紙に向かう。
その目は真っ直ぐで、けれどどこか苦しそうでもあった。
カイは、ユウの背中を静かに見守っていた。
隣のキーボードに、既にいくつかの旋律が打ち込まれている。
それはカイが、何も言われずに作った“なぎさを感じる音”。
それをユウは黙って受け取っていた。
スタジオのソファに座るゆうかは、ただ静かに見つめていた。
雑誌発売のタイミングに合わせて、Nというタイトルで曲を作ろうと思うと連絡がゆうかのもとへ来たのだ。
すかさず制作現場を取材させてくださいと返信した。
ゆうかの手元には、取材メモと、これまでの音源データ、そしてなぎさが残した数枚の手紙がある。
その中に一通、「ユウへ」と書かれた未開封の封筒があった。
ユウには、まだ渡していない。
――いや、渡せていない。
いま、彼が“何を歌うか”を決めるのは、自分の意志であってほしい。
ゆうかはそう思っていた。
だが、紙の上で止まっているユウのペンを見ていると、その手紙を渡すべき時が、もしかしたら今なのかもしれない――
そんな考えが、心の奥をかすめていた。
夕方になり、スタジオの照明が少し落とされると、ユウは突然立ち上がった。
ユウ「……書けたかもしれない。」
そう言って、ギターを手に取り、ポロンと音を鳴らした。
最初は、シンプルなコードだった。
それに続いて、カイの鍵盤がそっと重なる。
やがて、ユウの声が入った。
♪ 限られた時間の中で
「今を生きる」ことの意味を
教えてくれたのは 君だった
あの日の声が 道しるべになる ♪
レンが、小さく息を飲んだ。
マネージャーは、黙ってうつむいた。
誰も、口を挟まなかった。
その瞬間、この曲が「彼女のためのレクイエム」であると同時に、
「生きている者が歩き出すための歌」になるのだと、皆が感じていた。
後日、ゆうかはその音源をもとに、記事の最後にこう記した。
この歌は、“N”というタイトルである。
彼らに守られてきた少女と、それでも彼らが伝えたいと思った思いが、そこに込められている。
音楽は、過去を記録し、未来へ渡す。
その意味を、私はこの一冊と、この一曲から教えてもらった。
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