倦怠感はやがて牙となる

水浦果林

倦怠感はやがて牙となる

 少し前の嫌な記憶が、よくフラッシュバックするようになった。

 人のために動いたというのに、それをすべて潰された記憶。

 別に、「してやった」なんて奢るつもりはない。でも、せっかく人が作ったものを『気味が悪い』と一蹴して塗りつぶすのは違うだろう。

 ボクを潰した当の本人は、今も暢気に笑っている。なんの、悩みもなさそうな顔で。

 ……悩みのない人間なんかいない?そんなの知ったことか。人を踏み躙って笑っていられる奴らの悩みなんて、どうせ死に際に直面すりゃ毛程の興味もなくなるようなものだろうに。

 普段から、そんなことは考えないようにしていた。だって、向こうが悪いのに、少し不快感を表に出しただけでこっちが加害者扱いになるんだから。

 おかしいだろう。どうして人を傷つけたやつらが、平気で被害者を気取るんだよ。被ってんのはこっちなんだよ。

 そして加害者に仕立て上げるんだろう?表に見えるように涙を流してしたり顔でもするんだろう?

 

 ……あまりに疲れて、あまりに怒りが溜まると、取り敢えず目の前のそいつを視界から外したくなる。

 どうしても出ていかないやつは突き飛ばしてしまいたくなる。

 普段なら、絶対にそんなこと考えないのに。

 むしろ、自他ともに認めるお人好しであるのに。困っている人がいたら見捨てずに、近くに行かないと済まないというのに。

 まあ、元から性善説なんて、全く信じていないけど。頭のおかしい人間のほうが、きっとこの世には多いんだろうけど。

 行動には移さないようにするけど、取り敢えず手を振り上げて、脳を手の甲で抉ってみたくなる。


 ……あぁ、だから、人●しって、消えないんだなぁ。


 

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