1 マリーベルとロニー
第1話
朝食を終えたマリーベルはがたっと席を立つと食器を炊事場に持って行った。
「マリー、もう行くの?」
母に愛称を呼ばれ、振り返った。この狭い家は玄関から入ってすぐに台所があり、テーブルについた両親はまだ朝食の途中だった。
「私は一番弟子だもの!」
壁にかけてあったポーチを手に取り、腰に付けた。中に入っているのはナイフと皮手袋で、ナイフは固い茎の薬草を摘むときに使い、皮手袋は草の汁などでかぶれないようにするために使う。
「お邪魔にならないようにするのよ!」
「わかってる! 生ごみは捨ててくるね!」
レターナの声を背に受けて、マリーベルは扉を出て走り出した。
「まったく、あの子ったら家の手伝いもしないで」
「仕方ないさ。今は見守ってあげよう」
レターナのぼやきに夫のブレンドンは温かく言葉を返す。
マリーベルは養豚場に着くといつも通りに餌箱に生ごみを捨てた。捨てたあとの空かごは所定の位置に置いておき、母が回収に来ることになっていた。養豚場は生ごみの処理場でもあり、食肉の確保の場ともなっている。
近くには放し飼いの鶏がいて、地面をつついていた。
マリーベルは近付いてくる少女に目を止めた。茶色の髪に茶色の瞳をしていて、そばかすがキュートだ。彼女もまた生ごみを持ってきたのだろう。
「おはようタニア。ローズマリー、試した?」
「おはよう。ええ、もちろん。髪がつやつやになったわ」
タニアが長い髪を手で流すと、するりとした指通りを見せた。
髪がぱさついていると相談されて、マリーベルはトリートメントの作り方を教えたのだ。
お湯が沸騰した鍋にローズマリーを入れて蓋をする。三十分ほど蒸らし、抽出されたエキスがトリートメントになる。
若返りのハーブとも言われているローズマリーは常緑の便利で手軽なハーブだが、地植えをすると木質化して二メートルほどの大きさになることもある。
「ルタンも褒めてくれたの」
「相変わらず仲いいね」
ルタンはタニアの恋人で、彼女とマリーベルの幼馴染でもある。小さな村なので同年の若者はみんな幼馴染で村内の者はほとんど顔見知りだ。
「マリーはロニーとはどうなの? 毎日通ってて進展は?」
からかう声に、マリーは頬を赤く染める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます