第2話

「わ、私は薬師を目指してるだけだから!」

「余裕ねえ。ロニーは人気なのに。それに幻の薬草を探してるんでしょ? どっか行っちゃったらどうするの」

「それは……」

 マリーベルは言い淀む。


 ロニーは昨年の冬にふらっとやってきた青年。丁寧な言葉遣い、美しく優雅な所作、豊富な知識を持つ薬師。それらから貴族の出身だろうことは察せられた。

 いつか彼は彼の場所へ帰るだろう。恋をしたところで、立ちはだかる身分の壁を超えることなどできない。


「私だったらどーんと押し倒してでも止めるけどな」

「そんなことできるわけないじゃない。それに私は薬師になりたいだけだから」

 マリーベルは必死に言い張った。

 とはいえ、ロニーと一緒にいたい下心があるのも事実だ。だから薬師になりたいと言い張って彼の押しかけ弟子になった。


「はいはい。あとでおばあちゃんが行くからよろしく!」

「わかったわ!」

 マリーベルは手を振ってタニアと別れ、再び目的地へと向かう。


「ロニー、おはよう!」

 小さな家を訪れ、ノックとともに声をかける。

「おはようございます、開いてますよ」

 優しげな声に、マリーベルはドアを開ける。

 薬の匂いとともに、乱雑な部屋が目に入る。


 ドアの右側にはかまどのついた台所があり、大きなテーブルが置かれた土間の奥にはロニーへの私室につながる扉がひとつと薬の倉庫に使っている部屋がひとつ。

 テーブルの上には天秤、真鍮しんちゅうの薬さじ、薬の入った瓶が並ぶ。その正面にロニーが立っていた。


 粗末なシャツにズボン、革のベルトというほかの村人と同様の衣服であっても、彼の美しさは隠しようがない。水のきらめきを集めたような長い銀髪にブルーベルの花のような紫を帯びた青い瞳の輝き、極上の白い肌に天の使いのような中世的な顔立ち。細身の体はしなやかで、すらりと伸びた足は直線的で男らしい。


 マリーベルは彼を見るたびに心の中で神に問う。

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