第3話 ル・クレール
ミンドロ島での死闘から数日後。
裕政はハクランと別れ、首都マニラにあるイギリス大使館の地下書庫にて、ドクター・モンテロから新たな写本を受け取っていた。それは、かつて“アスワング・ブレイド”と対峙した聖騎士団の記録――そして、もう一つの“異端の聖剣”についての手がかりでもあった。
その名は――「ル・クレール」。
17世紀、スペインに侵略されたフィリピンに潜入し、現地の反乱軍を陰から導いた“影の騎士”が携えていたという伝説のレイピア。銀に蒼い輝きを宿し、闇を裂く光の軌跡を残す剣。
「ル・クレールは、エクスカリバーとは異なる系譜の“光”だ。だが、その光はしばしば“策略”と“裏切り”にまみれてきた」
モンテロの言葉は意味深だった。
写本を辿った裕政は、ミンダナオ島の古戦場跡を訪れる。そこで彼を待ち受けていたのは、仮面を被った剣士。
名をエンリケ・デ・ソリアーノ。スペイン騎士団の末裔を自称し、“ル・クレール”をその手に握る男だった。
「貴公こそ、エクスカリバーの継承者か」
エンリケは礼を尽くしつつも、片手に持ったル・クレールの切っ先を緩めることはなかった。
「ならば、この地で決着をつけよう。光と影、どちらが真に人を導くか――!」
湿った戦場跡の中、二人の剣が交錯する。
エクスカリバーの剛と、ル・クレールの巧。
力と技、意志と信念がぶつかり合い、火花を散らす中、裕政はふとエンリケの目の奥に、深い悲しみと後悔を読み取る。
戦いの終盤、エンリケの剣が裕政の肩をかすめた瞬間――アスワング・ブレイドの“黒き囁き”が再び響く。
> 「いずれ“剣の意志”が、お前を裂くことになる……」
裕政はその声を跳ね除け、エンリケの胸元に剣を突きつける。しかし振り下ろさなかった。
「剣はただの道具ではない。意思を持ち、選び、時に人を惑わす……。ならば俺は、自分の意志で“光と影”を選び取る」
その言葉にエンリケは剣を下ろし、仮面を外した。
蒼銀のレイピア“ル・クレール”は、エクスカリバーの鞘にそっと添えられ、静かに共鳴した。
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