第6話
シルヴィアから解放された俺は、自室へと戻る。
どうやらルームメイトはまだ戻ってきてないようだった。
俺はベッドに身を投げる。今日は色々なことが起こりすぎた。
まずは明日。定例の軍事会議で、人間たちの第一防衛地域・アルカディアを攻めることを幹部たちに伝える。戦争を仕掛けるなら、それなりに準備がいる。シルヴィアが提案した1週間という期限は、かなり余裕がないな。
そもそも魔王がいない状況で戦えるのか?
「アッシュに喋らせる内容を考えとかないとな……まぁいい。とりあえず明日考えよう」
翌朝。俺は魔王の間へと向かう。
「おい、起きろ」
ベッドで魔王の屍に抱きつきながら眠りにつくアッシュに声をかける。
「ん……クロノ、おはよ」
「今日の軍用会議の準備をするぞ」
「準備?」
「魔王を喋らせられるのはお前だけだからな」
ボサボサの寝癖のまま目を擦るアッシュを見て、俺は大きくため息をついた。
コイツに任せて、本当に大丈夫か?
「お前の魔禍印(デモノス)は、どれくらいの距離まで届く?」
「たぶん見える範囲だけ。試したことはないけど」
「正確な能力は? 声を発するだけか?」
「正しくは対象の意識を乗っ取ること。でも、自分よりも強い相手にはできないし、意識を乗っ取っても体は動かせない」
「なるほど。どうやら俺たちの魔禍印(デモノス)は似ているようだな」
俺の
「つまり……魔王を喋らせるにはお前を連れて行かなきゃいけないのか」
軍事会議は、玉座の間ではなく司令室でおこなわれる。アッシュを連れ出す必要があった。
様々な悪魔が属する魔王軍だが、こんな非力そうな少女はなかなかいない。悪目立ちしてしまうだろうな。
「それなら大丈夫」
アッシュはゆっくりと立ち上がり、部屋の片隅にあった古びた宝箱を開けた。
そこから手のひらサイズの宝石を取り出し、それを額に当てる。すると、小さな体が一瞬にしてコウモリへと姿を変えた。
「なんだ、それ?」
「たぶん魔石の一種だと思う。パパに貰ったの」
「はじめてみた……。確かに魔石には失われた魔法が封印されていると聞くな」
小さな羽根をパタパタと動かし宙に浮くアッシュ。これなら確かにバレなさそうだ。
「よし、とりあえず今日の軍用会議の準備だ」
「わかった」
「俺たちの目的は、シルヴィアの提示してきた1週間以内に、隣国・アルカディアへ侵攻することだ」
「侵攻?」
「つまり、攻め落とすんだよ。魔王軍の領土にするってことだ」
アッシュは「わかった」と頷く。
「そのためには、奴らの巨大な防壁と、魔法による結界を突破する必要がある」
「できるの?」
「……少し前に、魔王軍はアルカディアへの攻撃をおこなっている」
「ダメだったの?」
俺は頷く。
「奴らの守りは想像以上だった。作戦に参加すらしていない下っ端の俺は詳しいことを知らないが、噂では戦闘部隊である第一戦隊、第四呪隊(だいよん じゅたい)が参加したにも関わらず、為す術がなかったらしい」
「じゃあ、今回も無理?」
「いや、俺に考えがある」
「考えって」
「防壁を突破するには、単純な魔法攻撃じゃ無理だ」
アッシュは「じゃあどうするの?」と首を傾げる。
「この魔王城はどうやって守られているか知っているか?」
「魔法の結界でしょ?」
「そうだ。原理や理屈はアルカディアと同じ。そして、魔王城に結界を張っているのは第六監隊(だいろく かんたい)だ」
第六監隊は監視と防衛のスペシャリストたちが集う部隊。結界を知る彼らなら、結界を破る手段もわかるはず。それが俺の考えだった。
「よし、魔王としての命令は俺が考える。お前はそれに従って魔王として喋ればいい」
「わかった」
その後、俺とアッシュの準備は会議開始のギリギリまで続いた。
「……ふぅ」
司令室に置かれた巨大な椅子に魔王の屍を座らせ、俺は大きく息を吐く。
これから、幹部のみを集めた緊急会議がおこなわれる。
「いけるな?」
「うん」
俺の肩に乗ったコウモリに声をかける。打ち合わせは完璧に済ませた。
「失礼します」
入ってきたのは、第一戦隊(だいいちせんたい)の幹部・ローン。彼を皮切りに、7人の幹部が続々と集結する。
「座れ」
「はい」
魔王の声に合わせて、全員が用意されている椅子に腰掛けた。
俺と目が合ったシルヴィアは軽くウィンクをする。こっちの気も知らずに呑気なものだ。
対してラミアは目を合わせる気もないようだった。
俺はグッと握り拳に力を入れる。
これから――俺の運命を大きく変える軍事会議が始まる。
屍使いは影の魔王~魔王軍の下っ端だった俺は、死んだ魔王を操り世界を支配する~ @powersaito
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